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 若者たちの歌う「友よ」を聞きながら、男の目から大粒の涙
しかし、横に立っている由紀子はキョトンとして聞いている

男「素晴らしい唄だ!青春だ!輝く明日があるんだ!」

由紀子「バカみたい」

男「えっ?」

由紀子「夜明けは近いなんて、当たり前じゃん!夜の次は朝なんだから」

男「そりゃ、そうだけど、この唄はそういう意味じゃなくて・・・」

由紀子「お腹空いた、マック行きましょ!遅刻しそうだったから朝何にも食べてないんだ、どうせ学校行かなくていいんでしょ?」

男「まあ、そうだけど・・・じゃあとりあえず行くか・・・しかしこの時代マクドナルドはまだ無かったはずだな・・・そうだ!昔よく通った歌舞伎町のスカラ座に行くか!」

暗転

二人はボックス席に向かい合わせに座っている

由紀子「マックじゃないじゃん!あたしポテト食べたかったのに!」

男「ケーキあるよ、確かナポリタンもあったと思うんだが・・・」

由紀子「ナポリタンって・・・昭和じゃん!」

男「昭和のどこが悪い!・・・まったく、由紀子ってこんな我侭な女だったのかな?」

店員がやってくる

男「ブレンドとナポリタン」

由紀子「あたしはサンドイッチとアールグレー」

首を振る店員

由紀子「アールグレー無いの?えっ?リプトンしかない、なにそれダサい!」仕方ないからそれでいいわ、さっさと持ってきてよ」

店員が去って行くと、由紀子はカバンからタバコを取り出した

男「タバコ吸うのか?」

由紀子「えっダメなの?だって周りみんな吸ってるじゃん、ここ喫煙コーナーなんでしょ?」

男「いや・・・そうじゃなくて、由紀子はまだ高校生だろ?タバコ吸っちゃいけないんじゃないか?」

由紀子「あのさ、さっきから由紀子由紀子って、馴れ馴れしいんだけど、火ある?」

男は由紀子の手からタバコをむしり取った

男「この時代は高校生がタバコ吸うと刑務所に入れられるんだ!やめなさい!」

由紀子「え〜〜〜マジ!刑務所はヤバイじゃん、仕方ないな・・・」

男にスポットライト

男「早く作戦を決行しなくては・・・」

頭を抱える男


つづく













 由紀子「ここは?」

男「ここは196Q年だ」

由紀子「えっ?」

由紀子キョロキョロ辺りを見回す
長髪の薄汚い若者たちが歩いている
まさにここは196Q年の東京

由紀子「こんなところに連れてきて私をどうするつもりなんですか?誘拐?お金が目的なんですか?それとも私の穢れを知らぬ肉体?」

男は慌てて首を振った

男「誘拐でも体が目的でも無い、安心してくれ、何も危害は加えないから」

由紀子は少し安心したようだ

由紀子「それじゃ、ここに連れてくるのは私じゃなくても良かったのですか?」

男「いや!西田由紀子、キミじゃなきゃダメなんだ」

由紀子「それは・・・・私がクラスで一番可愛いから?」

男「ふ〜ん・・・クラスで一番可愛いのか・・・」

由紀子「私が自分で言ってるんじゃないのよ、みんながそう言ってるだけ、クラスのみんながね、先生たちもそう言ってるわ、先輩も後輩も言ってるわ、商店街の人たちも、隣の高校の男子たちも・・・」

男「分かった、分かった、キミが可愛いのはよく分かった」

由紀子はもっといろいろ言いたいみたいだったが、口を噤んだ

男の独白「由紀子はこんな時から自信過剰だったんだな・・・でも、そこが可愛いんだよな〜」

男「さて、それじゃこれからコンサートに行こう」

由紀子「コンサート?誰の?松浦あや?ミニモニ?それともゴマキ?」

男「いや、フォークソングコンサートだ」

由紀子「えええ?なにそれ???」

歩いてきた若者たちが歌いだす

♪友よ夜明け前の闇の中で
♪友よ戦いの炎を燃やせ
♪夜明けは近い 夜明けは近い
♪友よこの闇の向こうには
♪友よ輝く明日がある


   「友よ」 作詞 岡林信康


つづく








 舞台上手からリンゴが転がり出てくる

科学者「実験は成功だ!」

男「すごいじゃないか!これでノーベル賞間違いなしだ!ところで、生き物での実験は?」

科学者「うん・・・三日前に飼い猫のトラを一時間後の未来に送る実験をしたのだが・・・未だに戻ってこない・・・あれ以来妻が口を聞いてくれない・・・」

男「よし!俺が実験台になってやるよ!」

科学者「いいのか?」

男「ああ、何事も挑戦してみたいのが俺の性分だ!丸谷才一も言ってたじゃないか!見る前に跳べって!さあタイムマシンを貸してくれ、ふむふむ、これで行き先の設定をするんだな」

タイムマシンをいじる男、

科学者「10分後の未来に設定するんだ、それ以上だと俺は心配で失禁してしまうかもしれない」

男「分かった!よし、それじゃ時間旅行の始まりだ!」

右手に握ったタイムマシンを高々と掲げる男、スイッチを入れると舞台全体が赤く光り、すぐに暗転

照明が点く
舞台中央に男ひとり

男「悪いな騙しちゃって、タイムマシンが正常に作動していれば、ここは10年前の東京のはずだ、そしてあの子が通っている高校の前・・・」

男の横を上手から下手へ通過する高校生たち
一番最後にひとりの女の子が駆け込んできて転び、カバンの中身をあたりに撒き散らす

女の子「ああ、またやっちゃった〜」

見ている男

男「あの子に間違いない!」

男は駆け寄り、落ちたものを拾ってあげる

女の子「ありがとうございます」

男「私は今日ここに赴任してきた数学教師だ、キミの名前は?」

女の子「はい、西田由紀子です」

男「間違いない!実はキミにお願いがあるんだがいいかな?」

女の子「はい何でしょう?」

男は女の子に背を向けてタイムマシンを操作してから
向き直って左手を差し出す

男「手を握ってくれ」

女の子「は、はい?」

女の子が手を握った瞬間、タイムマシンのスイッチを入れる男
舞台が赤く光り、一瞬で暗転

暗転の中から歌声が聞こえてくる
歌の途中でゆっくりと照明が点く

♪遠い世界に 旅に出ようか
♪それとも赤い 風船に乗って
♪雲の上を 歩いてみようか
♪太陽の光で 虹を作った
♪お空の風を もらって帰って
♪暗い霧を 吹き飛ばしたい

    作詞 西岡たかし

舞台では三人くらいの男女がギターに合わせて歌っている
歌い終わると笑いながら下手へ
舞台上手側には男と西田由紀子

由紀子「ここは?」

男「ここは196Q年だ」

由紀子「えっ?」


つづく


 スナックトマト
スポットライトの中、男の独白

男「彼女は世間的には美人とは言えないのかもしれない、でも、その優しい笑顔が俺には一番の宝物なのだ・・・そりゃ確かに年齢が離れているから、そういうギャップはある。だがそれを補うくらいの近い感性・・・」

舞台全体に照明が当たる

女「一緒に歌いましょう」
男「そうだな、じゃあ中島みゆきなら分かるよね」
女「うん、大丈夫」

二人は立ち上がり、手を繋いで歌いだす

♪なぜ めぐり逢うのかを
♪私たちは なにも知らない
♪いつ めぐり逢うのかを
♪私たちは いつも知らない
♪どこにいたの 生きてきたの
♪遠い空の下 ふたつの物語
♪縦の糸はあなた 横の糸は私
♪織りなす布は いつか誰かを
♪暖めうるかもしれない

     「糸」  作詞 中島みゆき

暗転

科学者の声が響く

科学者「できた!完成したぞ!」

スポットライト
右手に小さな機械を持っている科学者

科学者「苦節40年、理論的には不可能と言われたタイムマシン!しかし私は根性で作り上げた!幼少時代に読み続けた漫画に描かれてあった根性!・・・根性があれば、!大リーグボールだって投げられる!根性があれば何でも叶うのだ!」

右手の機械を見て

科学者「しかもこんなにコンパクト!思えば壱号機は東京タワーのように巨大だった、しかしそんな大きなタイムマシンで過去や未来に行くのは不可能!弐号機参号機と改良を重ね、こんなに小さくできた!ウォークマンを作ったソニーのように!iPodを作ったスティーブ・ジョブスのように不可能を可能にすることができた!」

下手から男

男「何をそんなに興奮しているんだ?」

科学者慌てて機械を隠すが、男に気づいてホッとする

科学者「なんだ、山田か・・・びっくりしたよ、ソ連のスパイが私の発明を聞きつけて奪いに来たのかと思った」
男「ソ連って・・・いつの話しだ・・・何か発明したのかい?」
科学者「聞いて驚くな」
男「なんだって!それは本当か!?」
科学者「まだ何も言ってない!お笑い芸人みたいなノリはいらないから」
男「失礼」
科学者「実は斯く斯く云々だ」
男「なんだって!それはすごい!そんな発明は藤子F不二雄以来誰も発明していないぞ!」
科学者「いや、エメット・ブラウン博士が一度発明している」
男「誰だそれは?」
科学者「通称ドクだ、デロリアンを改造してタイムマシンを作った」
男「おお、そうか!ところでお前の作ったタイムマシンはどこにある?」

キョロキョロ探す男

科学者「これだ!」
男「なんと!そんなに小さいのか!本当に過去や未来へ行けるのか?」
科学者「もちろんだとも、10分前にリンゴを未来へ送る実験をした」

腕時計を見て

科学者「丁度10分経った」

突然舞台上手からリンゴが転がり出てくる

科学者「実験は成功だ!」
男「すすすす、素晴らしい!」

男にスポットライト当たる

男「いいことを思いついた!」


つづく




 

  • 2013.01.08 Tuesday
  • 196Q

 第一幕

ここはスナックトマト店内

ステージと客席が暗くなる
イントロが始まる
舞台に照明、マイクスタンドの前で歌う男

♪私たちは今 思い起こさなければ
♪私たちは今 平和をきずかなければ
♪私たちは今 兄弟を守らねば
♪私たちは今 戦争を忘れてはならない
♪まるで洪水のように
♪なにもかもが
♪ひきずりこまれて行く
♪私たちは今 戦争を忘れてはならない・・・

     作詞 西岡たかし

舞台全体に照明が点く
男の後ろのボックス席で欠伸をしていた若い女が慌てて拍手をする

女「始めて聞いたわ」
男「これは、五つの赤い風船ってフォークバンドが歌っていた(まるで洪水のように)と言う曲さ」
女「フォークソングって聞いたことないわ」
男「そうだよな、キミはいくつだ?」
女「27よ」
男「キミが産まれるずっと前の歌だ、あの頃は良かった・・・」

遠くを見つめる男
苦笑する女

女「私の知っている曲を歌ってよ」
男「悪い・・・最近の歌はまったく聞かないんだ、何を聞いても全部同じに聞こえる、AKBだってDDTだってももクロだってシロクロだって、違いが分からない」
女「そう・・・」

会話が続かない、男も女も沈黙

男が意を決して立ち上がり、スポットライトが当たる

男「俺はこの女が好きだ!大好きだ!結婚できるものなら結婚したい!運良く俺は独身だ・・・バツイチだが・・・しかし、俺はもうすぐ還暦、だが彼女は27歳・・・年の差は30歳・・・しかし!加藤茶は45歳も年が違うのに結婚した!それに比べれば30歳なんてどうって事は無い!」

振り返り、女の方を見る
ゆっくりと顔を戻し

男「だが、加藤茶はお金持ちだ・・・それに比べて俺は貧乏なアニメ演出家・・・おまけにイケメンでも無いし身長も低い、鼻も低い・・・イビキがひどい、歯ぎしりもする、足も臭いしオナラも臭い・・・マイナス要素が多すぎる・・・っていうか、プラス要素が皆無!・・・こんな俺でも若い時は輝いていた・・・と思う・・・」

照明が点く

女「独り言?もう一杯いただいていいかしら?」
男「あ、ああ、いいよいいよ」

慌てて座る男
反対に女は立ち上がりカウンターに近寄ってバーテンにウーロンハイを注文する
バーテンダーは若いイケメンだ、女とバーテンダーの視線が一瞬絡み合う
男の胸に嫉妬の炎が燃え上がる

男「やっぱり女はみんな若いイケメンが好きなんだ!俺なんか俺なんか・・・あ〜〜〜もう一曲うたってやる!」

♪好きだった人 ブルージーンをはいていた
♪好きだった人 白いブーツをはいていた
♪好きだった人 ステテコもはいていた
♪好きだった人 Tシャツが似合ってた
♪失恋という言葉は 知ってたけれど
♪失恋という言葉は 知ってたけれど

     作詞 伊勢正三


つづく




  その後、ステージには、高田渡、加川良、岩井宏が上がって「ごあいさつ」「銭がなけりゃ」などを歌い、そして、のこいのこ、はしだのりひことマーガレッツ
夕方からは遠藤賢司「夜汽車のブルース」最高だ!それから五つの赤い風船
「遠い世界に」の客席巻き込んだ合唱は泣ける!
そして、なんと、チェコスロバキア・スルク大舞踏合唱団が「ジプシーの音楽」
ここらへんになるとフォークだか何だか分からない、まるで新宿の歌声喫茶ともしびみたいな感じだ
さらに、村岡実とニュー・ディメンションの「追分」と来た日にゃ、何でもありですか?

真夜中になると岡林信康登場!私たちの興奮は最高潮!泣いていた18歳の俺も声を涸らして叫んでいる
はっぴいえんどをバックに「私たちの望むものは」を歌う
朝方になると六文銭、ソルティ・シュガー、赤い鳥、午前11時に岡林信康が再度登場
ほぼ丸一日24時間弱の全日本フォークジャンボリーは幕を閉じた

蒸気機関車に乗って帰る俺たち三人組
18歳の俺も、12歳の彼女も疲れ果てていた

59歳の俺は、今後どうするかを考えていた
12歳の彼女を好きになるようにしなくては
そして、12歳の彼女も、同じように18歳の俺を好きになるようにする
59歳の俺は、いわばキューピットだ!

今回は失敗してしまったが
やはり、18歳の俺をフォークシンガーとしてデビューさせるのが一番良い方法だろう
何と言っても、59歳の俺は、何の曲がヒットするか全て知っている

「神田川」はちょっと時期が早すぎて失敗したが
次は慎重に行こう

吉田拓郎はこの年の前年に「古い船を動かせるのは古い水夫じゃないだろう」という自主制作アルバムを出し、1970年には「ニュー・フォークの旗手」と呼ばれていた
拓郎の曲をパクるわけにはいかない

井上陽水か・・・
彼はこの時代「アンドレ・カンドレ」という芸名で活動していたが、ほとんど売れていない
陽水の「傘がない」をパクってやろうと、18歳の俺に楽譜を渡して歌わせてみたが、高音が全然出ないので・・・陽水は諦めた・・・

もしかして、18歳の俺は才能無い奴かも・・・と、思わないでもなかったが
「いやいや、歌の下手なフォークシンガーなんてたくさんいる!大切なのは曲だ!」
そう思うことにした

この時代の歌は、時代と共に流れていた
「傘がない」が1970年に発売されたとしてもヒットしてはいないだろうし、吉田拓郎の「結婚しようよ」が拓郎のデビュー曲だとしたら、ヒットすることもなく、それで終わっていたかも知れない
歌が生まれてくる背景には、その時代の持っている空気が反映しているに違いない

だとすると今は雌伏の時か
まず、ギターをみっちり勉強させよう
いまはC、Am、E、Gぐらいしか押さえられない
まず、Fをちゃんと押さえられるようにさせなくちゃ・・・
そこからやらなきゃいけないなんて・・・情けない

しかし、これが大いなる一歩だ!
目指せ紅白歌合戦!


つづく


 タイムマシン ACT6

18歳の俺はすぐに見つかった
小さなアパートで安いギターを下手なアルペジオで弾きながら自作の曲を歌っていた
勝手知ったる私の家って感じで、59歳の俺は訪ねて行った
俺は18歳の彼に一枚の楽譜を渡し、一緒に第二回フォークジャンボリーに行く約束をした
そこに12歳の彼女も連れて行き、18歳の俺の雄姿を見せるのだ

「飛び入りで出場して、この曲を歌うんだ、そうすればおまえはすぐにフォークシンガーの仲間入りだぞ」

「えっ!ホント?・・・でもあんたは一体誰なんですか?」

「私は世に埋もれたシンガーソングライターだ、本当ならこの曲でデビューしようと思ったんだが、還暦まじかになってフォークシンガーでデビューしても、誰も注目してくれないだろう、しかし、君なら若い!君の若さと歌のうまさで華々しくデビューしてくれ!」

「分かりました!」
18歳の俺は楽譜を見て呟いた
「神田川・・・」

そう、それは1973年9月に(南こうせつとかぐや姫)が出す予定のシングルだ、この曲は当時大ヒットした
しかし、いまこの時代、南こうせつは存在しているが(神田川)という曲は存在していない
この曲をフォークジャンボリーで歌えばアンコールの嵐だろう
そうすれば、一緒に連れて行った12歳の彼女も、18歳の俺に惚れること間違い無しだ!

59歳の俺、18歳の俺、12歳の彼女は1970年8月8日、岐阜県恵那郡坂下町の花の湖畔にやってきた
コンサートは昼過ぎから始まり、最初に登場したのはインスタンツ、その後アマチュアが続く、
なぎらけんいちもこの時飛び入りで参加して一躍人気者になるのだ
18歳の俺はギターを抱えながら興奮していた
12歳の彼女は立ちあがってハシャイデいた
なんて可愛いんだろう

「いまだ!行け!」

18歳の俺はステージに駆けあがった
歓声がすごい
18歳の俺が緊張しているのは、客席からでもよく分かった
12歳の彼女も心配そうだ

「お兄ちゃん大丈夫?」

「ああ、大丈夫だよきっと」

歌い出した

あなたは〜〜〜もう〜〜〜忘れたかしら〜〜〜♪

声が震えているのは仕方ない、しかし初めてにしてはよく歌っている
観客は静かになった
きっと感動しているに違いない・・・
と思ったら、突然怒号が!?
「軟弱野郎〜〜〜!」
「何がカタカタなっただ〜〜!ふざけんな!」
「ひっこめ〜〜〜!」
「女々しい歌は止めろ!」
18歳の俺はステージから引きずり降ろされ
泣きながら俺のところに戻ってきて怒鳴った

「なんだこんな歌!馬鹿野郎〜〜!」
12歳の彼女、軽蔑した顔で18歳の俺を見ていた

四畳半フォークは、この時代まだ早すぎたのだ・・・


つづく


 タイムマシン act5


「喉が渇いた・・・」
19歳の彼女がつぶやいた
俺は、水道の蛇口からコップに水を注いで渡したが
「ミネラルウォーターは無いの?」
この時代そんなものは無い
「じゃあ、コーラでいいわ」
俺は外に出た、コンビニはこの時代まだ普及していない、俺は酒屋でビンのコーラを2本買った
部屋に戻ると、彼女がいない、2本のコーラを持ったまま茫然としているとサイレンの音が聞こえてきた
2階の窓から表の通りを見ると、彼女が両手を振り回してパトカーを呼んでいる
まずい!警察に電話したらしい
俺はコーラを持ったまま部屋を飛び出し外階段から裏家の庭に飛び降りて逃げた
タイムパトロール隊はいなくても、本当のパトロール隊は存在するのだ
後ろを振り返ることもせず、裏道から裏道を走り続けた
少し休んでコーラを飲んだ
ここまで来れば大丈夫だろう

しかし、19歳の彼女をこの時代に置き去りにしたままでいいのだろうか?
2011年の彼女が存在しなくなってしまうのか?
大好きな彼女をこのままにしてはいけない

書きながら、前回のお話しを読んでいて、年代の間違いに気づいた!
19歳の彼女を拉致したのは2011年じゃなくて2004年だ!
すいません
ボーッとしながら書いているとこんなことになる・・・時間移動ものは大変です

というわけで
警察から帰ってきた彼女を見つけてまた拉致して2004年に送り届けた

そして1997年に行き小学校帰りの12歳の彼女を拉致して(完全に犯罪者だ・・・)
1970年の23区の外れにあるW町に連れていった
すぐに小さなアパートを借りた
前と同じようなトイレ共同の部屋である
この時代にはこういうアパートは当たり前のように存在していた
12歳の彼女は最初こそ怯えて震えていたが、近所の公園に連れて行くと野良猫見つけて喜んでいた
1970年のこの町はまだ畑が広がり空地もたくさんあった
「飼っていいよ」
そう言うと嬉しそうに猫を抱きかかえて連れてきた
59歳の俺と12歳の彼女との共同生活が始まった
大家には親子と話してある
近くの小学校に編入させてもらい、俺も働きだした
アパートから少し離れたところに、大学に入ったばかりの18歳の俺が住んでいる
紆余曲折あったが、これで何とかうまく進んでいくだろう・・・

つづく





 タイムマシン ACT4

19歳の彼女を拉致した!
すぐにスバル360に押し込んで過去へ向かう
とうとう俺は犯罪者!
藤子・F・不二雄さんのマンガなら、すぐにタイムパトロール隊がやってきて捕まるだろうが、現実にはそんなパトロール隊は存在しない・・・いや、いるかもしれないが・・・

まあ、それはその時考えるとしましょう

非常に展開が早い本作では、拉致の手順など詳細に書いている暇は無いので省きます
とりあえず睡眠薬を飲ませたということでお許しを!

そんなわけで
1975年にやってきた

この年、ベトナム戦争が終結
テレビアニメ「タイムボカン」が放送開始
5月1日、本上まなみ誕生
11月16日、内田有紀誕生
22歳の別れ、なごり雪・・・かすかにフォークソングの小さな流れはあるが
ユーミンがニューミュージックの大きな流れを作り出そうとしていた時代

この時代
23歳の俺はフォークシンガーになる夢は微かにあるものの、時代の流れが早すぎて、付いていけなかった・・・
上京し勤めた会社をすぐに退社、バイト生活をしながら知り合った女の子の紹介で文芸サークルに入り、ガリ版刷りの同人誌に詩とも言えない意味不明ななぐり書きを発表しては「〇〇くんの詩はランボウみたいだね」なんて愚にもつかない褒め言葉に自信満々になっていた頃・・・
先の見えない霧の中を彷徨っていた23歳の俺

そんな俺のいる時代に、59歳の俺と19歳の彼女はやってきた
彼女が目を覚ましたのは新宿歌舞伎町の裏にある古いアパートの一室
6畳一部屋、トイレと台所は共同、風呂は無い
19歳の彼女は小さなうめき声をあげて目を開けた
睡眠薬から目覚めた後は、しばらく頭痛がする(想像だけど)
彼女はボーッとした目で59歳の俺を見た
特に悲鳴をあげることもなく、じっと俺を見ている
26歳の彼女も可愛らしかったが、19歳の彼女ももちろん可愛い、じっと見つめられて、俺は恥ずかしくなってきた、こんな可愛い少女をこんなところに拉致して連れて来るなんて、俺はなんて悪党なんだろう・・・と後悔した・・・

「ここはどこ?」

「ここは、新宿、ただし1975年の新宿だけど・・・」

「えっ?・・・」

「キミのいた時代は2011年、だけどここは、1975年、つまり2011年から36年前の過去だ」

「過去?」

まだ理解できないみたいだ、それも仕方ない、タイムマシンで過去に連れてこられるなんて、滅多にできない経験だ・・・

「どうして、過去なんかにいるの?」

あんまり正直に話してもよけい理解できないかもしれない
ここは、誤魔化そう

「2011年、地球に隕石が衝突した、そのエネルギーは強大なものだったらしい、時空間に乱れが起きて、時間軸がずれてしまった・・・そのために過去に飛ばされたらしい・・・私もキミと同じように過去に飛ばされてきた」

「・・・そう・・・なんか突然後ろから羽交い絞めされて気を失ったような記憶があるけど・・・」

俺はちょっとあわてて
「それは夢だよきっと!」

「そうね・・・そう言われると、そんな気もする・・・」


つづく






 タイムマシン ACT3


結局パチンコで時間をつぶし、7時すぎに「みすず」に行った
小さな居酒屋だが、品の良い内装、そして彼女のお母さんの優しげな立ち振る舞い
この親にして、あの娘ありという感じだ
少し飲んで店を出た
最初から深追いはしないほうが良いだろう

マンションに戻ると19歳の俺がいない
あれほど部屋を出るなと言っておいたのに・・・
あわてて近所を探し回ると、19歳の俺がコンビニで立ち読みしていた
すぐにマンションに連れ戻したが、それから三時間ものあいだ19歳の俺からの詰問にあった
19歳の俺にはここが1972年の東京だと嘘を言っていたが、コンビニで立ち読みしたことで、すべてバレてしまった
まあ、いつまでも隠してはおけないと思っていたが、バレるのが少し早すぎた

「俺を北海道に返してくれよ!こんな訳の分からない場所にはもう居られない」

最後には19歳の俺は「カアチャ〜〜ン」と泣き出した
彼はすっかりホームシックになっていた

仕方が無い、ひとまず彼を1972年に返したほうがいいかもしれない
すぐに19歳の俺をスバル360に乗せ1972年の北海道M市にタイム移動し、彼を解放した

計画の立て直しだ
19歳の俺を連れて行くのは諦めよう
反対に、16歳の彼女を過去に連れて行って19歳の俺に会わせよう
しかし、それだと過去の北海道だ
そんな田舎に連れて行くのは彼女が可哀そうだ

大学卒業した後、東京で就職したんだから
彼女を東京へ連れて行こう
23歳の頃の俺に会わせよう
彼女は19歳くらいがちょうどいいかな

1975年の23歳の俺に、2004年の19歳の彼女を連れて行く
よし、すぐに彼女を探しに行こう!


つづく


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