新宿風月堂は新宿駅東口、角筈一丁目にあった
店内にはクラシック音楽が流れている
ここは当時
「風月堂に行けばすぐに友達ができる」と言われた店だが
1969年当時はそんな熱気は失せていた
店内には昼日中から営業の途中仕事をサボっているようなサラリーマン、長髪で風呂に入ってないようなフーテン、新宿の甘美な香りに引き寄せられた田舎者、警察に追われているような学生運動家などなど、雑多な人々が虚ろな表情でソファにもたれていた

俺と詠子が店内に入ると玄関脇の席に16歳の俺が心細そうに座っていた

「やあ、お待たせしました」
俺は明るくニッコリとして、16歳の俺の不安を消してあげようとした
詠子は何も言わず、物珍しそうに店内を見ている

「あの・・・」
小さな声を出す健司
「僕はこれからどうすればいいのですか?」
俺は更にニッコリして
「それは私のほうで考えてあります、まず(あしたのためにその1)ギターの勉強です、取りあえずFコードはキチンと押さえられるようにしてください、それだけで充分です、ギター抱えて歌えば誰がやってもフォークソングに聞こえます、それと色んなシンガーの色んな歌を知らなくてはいけません、それも、私のほうで手配しますから、キミは何にも心配しなくていいですよ」
「はあ・・・」
俺は腕時計を見た、6時過ぎている
「取りあえず今日は新宿西口に行きましょう」

三人は風月堂を出て新宿通りから地下歩道ガード下を潜ってションベン横町に出た

詠子は顔を顰めて
「なんか臭い、このへん」
「ハハハ、ここはションベン横町って言うんだ」
「やだ〜」

健司はまだ固い表情のままだ
「健司くん、別に怪しいところに連れて行くわけじゃないから、そんなに緊張しなくていいよ」
「は・・・はい・・・」
「どこへ行くの?」
詠子は楽しそうだ
「これから新宿西口地下広場に行く」

新宿西口の地上から階段で降りている途中、騒音のような歌声が聞こえてきた


くそくらえ節  岡林信康

ある日学校の先生が 生徒の前で説教した
テストで100点取らへんと 立派な人にはなれまへん
くそくらえったら死んじまえ くそくらえったら死んじまえ
この世で一番えらいのは 電子計算機

ある日会社の社長はん 社員を集めて訓示した
キミたちわたスを離れては マンズ生きてはいけない身の上さ
くそくらえったら死んじまえ くそくらえったら死んじまえ
金で買われた奴隷だけれど 心は俺のもの 


西口地下広場には千人以上の人々が集まり声を限りに歌っていた
いや、歌っていると言うより、怒鳴りまくっているというほうがふさわしいかも知れない
そこには熱気が立ち込めていた
中心にはフォークゲリラの若者たちがギターを抱えて歌っていた
その周りに座り込んだ人々はガリ版刷りの歌集を手にして歌っていた
輪の周りには全共闘系学生たちがビラ配りをしていた

買い物帰りのおばさんが文句を言っている
「あんたたちがこんなとこで座り込んでると通行の邪魔よ!あたしは早く家に帰りたいのよ!どいて!」
すると一人のサラリーマンが叫ぶ
「あなたが1分早く帰宅することと、いまここでベトナムや戦後日本の問題を考えることと、どちらが重要か!」
「そうだ!そうだ!」

学生からサラリーマン、中年のおじさんまで、ここではみんなが熱に浮かされるように大声で歌い大声で議論していた
2012年の新宿西口地下では想像できない風景だ

あの当時、引っ込み思案だった俺は、新聞記事で知っていたが、実際にここに来たことは無かった
いまこうして、西口地下広場に立った俺の心の中に熱い物がこみ上げてくる
16歳の俺を連れてくることを理由にしていたが、本当は俺自身がここに来たかったんだ
あの頃、出来なかったことを、やり直したいと思っているんだ俺は!

そんなことを考えていると、自分でも気付かぬうちに歌いだしていた

くそくらえったら死んじまえ〜〜〜
くそくらえったら死んじまえ〜〜〜

横を見ると、健司と詠子も声をそろえて歌っていた

こんな楽しい空間が1969年の新宿にあったなんて・・・

しかし、この後すぐに機動隊が投入され、フォークゲリラの連中は逮捕される
容疑は、道路を不正に使ったという道路交通法違反と、無届の集会だという公安条例違反
そして西口広場は西口通路と名前を変えられてしまい
警官たちがスピーカーで怒鳴る声が地下に響いた

「ここは通路です、立ち止まらないでください、ここは通路です」

俺たちの広場は戻ってこない


つづく

             参考文献 「新宿フォークゲリラの夜」 吉岡 忍 
        
                    「日本のフォーク&ロック史」 田川 律
 

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