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今日もまた女の上司に怒られた、それも年下だ。

パソコンは苦手だ。

ノルマの枚数が終わらないと家に帰れない。ノルマが達成できないと給料が減らされる。

こんな生活、昔とちっとも変わらない。

楽になったと思ったのは一時期だけだ。

結局給料は上がらないし、忙しいのは変わらない。

デジタルアニメ制作になって楽になったのは制作進行だけじゃないのか?

そりゃ確かに、俺たち仕上げの仕事も楽になった。

しかし一枚あたりの単価は下がった。

おかげで今も同じように苦しい生活だ。

それでもこの仕事をやっているのは、アニメが好きだからだ。

俺がペイントしたキャラクターが画面で動く、素晴らしい。

それだけが楽しくて、50歳になってもアニメのペイントしている。

デジタル制作になったのは何年前だったかな?まだ俺は30代だったから、もう20年くらい前なのかな?あの時アニメ業界を去って行った連中はどうしているのだろう?ペイントから撮影までパソコンで出来るようになって、アニメ業界を辞めた連中はたくさんいる。みんなどこへ行ってしまったのだろう・・・

この仕上げスタジオも若い女の子ばかりだ。俺みたいなおじさんは居ない。

俺がミスするたびにみんなが笑う。

仕方ないだろ、俺が子供の頃にはパソコンなんて無かったんだから。

クリックとかドラッグとか言いやがって、日本人なら日本語使えってんだ!

絵の具の時代には、俺は一日千枚塗った記録だってあるんだからな。

切り張りだって表塗りだって何でもできた、マシンかけるのも得意だったなあ・・・

セルの魔術師と呼ばれたものさ・・・あの頃が懐かしい・・・

もう一度あの時代に戻りたい。

セルアニメの時代に・・・

 

何とかノルマを終わらせて、俺はアパートへ帰り爆睡した。

そして二日後スタジオに行ってみると、机の上からパソコンが無くなっていた。

俺が爆睡している間に世界中のパソコンが使えなくなっていたのだ。

原因は分からないらしい。

パソコンの代わりに絵の具瓶が置いてあった。

テレビアニメを毎週放送するために、パソコンが復旧するのを待っているわけにはいかず。昔のようにセルアニメで作ることになったのだ。

しかし、このスタジオにセルを塗れる人間なんて俺以外誰も居ない。

社長が俺のところに飛んできた。俺は仕上げチーフに昇進した、給料も上がった。若い連中は俺を尊敬した。セルの魔術師が戻ってきたんだ!アハハハハハハ!

 

アパートに帰ると部屋の中で悪魔が待っていた。

「あなたの三つの願いを聞きました。満足していただけましたか?」

初耳だった。

「三つの願いって何だ?悪魔って何だ?なんで俺の部屋にいる?俺は悪魔の友達なんかいないぞ!」

悪魔はニヤニヤしながら言った。

「私があなたに会ったのは、今から20年ほど前です。酔っ払って路地裏で吐いていたあなたの背中をさすってあげたのは私ですよ。あなたは叫んでいた。絵の具まみれの生活なんて嫌だ〜〜〜!って。だから私があなたの願いを叶えてあげたのです。絵の具まみれにならないようにパソコンで作業できるようにしたのですよ」

うっすらと記憶が戻ってきた。

確かに変なオヤジに背中をさすられた事があった。

「じゃあ、お前のおかげでデジタルアニメ制作になったって言うのか?」

「その通りです」

「それが俺の一つ目の願いだったのか?」

「仰るとおりです」

「すると、デジタルからセルアニメに戻ったのは二つ目の願いって事か?悪魔は三つの願いを聞いてくれるんだよな?よし!じゃあこの部屋いっぱいの金貨を出してくれ!いや、それだけじゃ足りないな。東京ドーム百個分の金貨を出してくれ!」

「出来ません」

「何故だ?百個分ってのは多すぎるか?・・・じゃあ東京ドーム一個分の金貨でもいいぞ!」

「あなたの三つの願いはもうすでに聞いております。セルアニメに戻したのが三つ目の願いです」

「それはおかしいぞ!一つ目が絵の具まみれにならないだろ?そうするとセルアニメに戻るのが二つ目じゃないか!」

「あの夜酔っ払ったあなたは私にこう言いました。俺をアパートに連れて行ってくれと。それが二つ目の願いだったのです」

何てことだ、酔っていた俺は悪魔と約束したことすら忘れていた。

すでに二つの願いを叶えてもらったなんて・・・


「さて、三つの願いは叶えましたので次に私が現れるのは、あなたが死んだ時です。その時までお元気で」

そう言うと悪魔は消えた。

次の日からまた絵の具まみれの日々が待っていた。


 

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