助けたネコの妖術で、若い女の子に変身できる力をもらったおヨネ婆さん
早速その力を使って町のマクドナルドで働きはじめた
しかし、変身しいられるのは一日3時間、それしか働けないので、時給950円×3時間で2850円にしかならない
これじゃ楽園ホームの借金をいつ返せるのか分からない
そんなことをしているうちに一週間が経ってしまった
長宗我部社長がやってきた
長宗我部社長は見たところ30前後、ブランド物のスーツを着こなし、精悍な顔立ちだが、どこか人を馬鹿にしたような口角の上がり方に意地の悪さを感じる、キャバクラで嫌われるタイプだ・・・
管理人のおばさんも、楽園ホームの人々も半分諦めた表情で玄関を入ってくる長宗我部社長を見ていた
しかし、ドアを開けようとしても開けることができない、長宗我部社長はイライラとしながらドアを蹴った
それでもドアはびくともしない、仕方なく裏口に回った、しかし裏口も開かない
管理人のおばさんも、楽園ホームの人々も「?」という顔で見ている
建物をグル〜ッと回った長宗我部社長が表玄関に戻ってきたところで、足をもつれさせて何も無いところで転んだ
腰を打って顔をしかめる長宗我部社長
「また明日来るからな!」
怒鳴りながら帰って行った
管理人のおばさんと楽園ホームの人々はホッとしながら帰っていく社長を見送った
しかし、事態が好転したわけではない・・・
玄関横の柱にもたれて笑っているのは、幽霊になっている管理人の夫、埼玉晃
玄関が開かなかったのも、社長が転んだのも、すべて彼の仕業だった
「明日来たって、私が邪魔してやる!楽園ホームには絶対入らせないからな!」
翌日
おヨネはマクドナルドでバイトしているとき、客の話しが聞こえてきた
高校生4人組の彼らは列に並びながら一枚の紙を見て話していた
「一か月後か、何とかなるよな」
「ああ、この町に俺たちよりうまいバンドなんかいるわけないだろ」
「絶対優勝してやる」
「一千万とCDデビューだからな、負けるわけにはいかないぜ」
その4人組がおヨネの前に来た時に持っていた紙を奪い取った
その紙には
ロックバンドコンクール
賞金一千万円
おヨネ興奮した!
「これで優勝すれば一千万円!こんなとこで時給950円もらってる場合じゃないわ!」
すかさず制服脱ぎ捨てて楽園ホームへ帰るおヨネ
取り残された高校生4人組は唖然
彼らこそ、ロックバンドコンクールでおヨネたちの最大のライバルになるCRAZY NIGHTSの4人組であった
お婆さんの姿で楽園ホームへ戻るおヨネ婆さん
みんなが集まっている広間で紙を見せた
「バンド作ってコンクールに出るのよ、優勝したら一千万円、そうしたら借金を返せるわ!」
しかし、お爺さんお婆さん不審な顔
「ロック?」
「バンド?」
「コンクール?」
鹿児島ケン爺さんが呆れた顔で言った
「おヨネ婆さんとうとうイカレチまったか、ロックバンドなんてションベン臭いガキ共のやることだ、なんでワシらがそんなことしなくちゃいけねえ?」
「だって、優勝したら一千万円だよ、そしたらここの借金が・・・」
「優勝なんかできるわけないだろ、考えてみろ!こんなかの誰が楽器なんかできる、みんな動くのも大変な爺婆ばかりじゃ」
「あたしはピアノできる、他にも楽器できる人はいるかもしれん!誰かいないですか?」
しかし、広間の爺さん婆さん黙ったまま誰も返事をしない
若いころに楽器をやっていたとしても、今は中風や神経痛やリューマチで楽器なんかできそうもないのは想像がつく
静まり返った広間
でも、おヨネ婆さんは呟いた
「あたしはやる、一人でもやる・・・こんな年までお世話になったホームの危機をほっておくことはできん・・・」
玄関からまたドアを開けようとする大きな音が聞こえてきた
一同あわてて玄関を見た
長宗我部社長がドアを開けようとしていたが、昨日と同じように開かない
社長はうなずきながら連れてきた若者を呼び寄せハンマーでドアをぶち壊そうとした
「止めてください!」
管理人のおばさんが駆け込んできてドアを開けた、ドアは何の抵抗もなく開いた
「どうぞ、中へお入りください」
長宗我部社長、フンッと口角を曲げて、玄関に入って来た
「さて、一週間待ってあげたのだが、まだみなさんここに居るのですね、借金を返さない場合は、この土地建物すべて、この私、長宗我部の物です、すぐに立ち退いてください」
「すいません、もう少し待ってください、楽園ホームのみんなは身寄りもない人たちですから、ここを追い出されたら行くところは無いんです、あなたはこの人たちに死ねというのですか?」
「死ねとは言ってない、出て行ってくれと言っているのだ」
「なんだと!」
興奮した鹿児島ケン爺さんが叫んだ
「ワシたちは御国のために戦ってきたのだ!お前たちが幸せな生活を送っているのは、ワシらのおかげじゃないのか!」
「フンッ!死にぞこないの爺い!うるせえ!」
「なんだと〜〜〜〜!ウッグググッ・・・」
ケン爺さん興奮して倒れた
あわてて駆け寄る爺さん婆さん
「ケンさんしっかり〜〜!」
おヨネ婆さん、白目をむいてるケン爺さんを横目に見ながら、ツカツカと長宗我部社長に近づいて
4人組の高校生から奪いとってきた紙を見せた
「あたし、バンドを作って、このコンクールに出場します、そして、優勝して一千万円の賞金をもらいます、それで借金は無くなりますか?」
眉をひそめる社長
「借金はチャラになるが・・・あんたがロックバンドコンクールで優勝すると?」
「はい!」
長宗我部社長、突然噴き出して笑った、転げまわって笑った
しかし、おヨネは本気だった
つづく