新聞に掲載されていた犯人の名前は「柳生次郎」
M運送に勤務していると書かれてあった
僕は山田と二人で、M運送に出かけた
郊外のファミレスの隣に、目的の運送会社があった
小さな建物の横に2台のトラックが止めてあった
このうちの1台が、父を轢き殺したトラックなのかも知れない・・・
そう思うと無性に腹が立ってきた
僕は運送会社のドアの前で大声を出した
「柳生次郎!出てこい!」
ドアのガラス越しにおばさんの顔が現れた
キョトンと僕らを見ている
「柳生次郎!出てこい!」
また怒鳴った
おばさんはドアを開けて
「うるさいわね!何なのよ!?」
ガラガラ声で怒った
なんか、学校の数学の先生を思い出して冷や汗が出た
「柳生次郎を呼んでください!」
大声で怒鳴った
おばさんはそれ以上の大声で「普通の声で言いなさい!」と怒鳴った
「はい・・・」
僕は素直に頷いた
こんな、おばさんに逆らうほど無駄なことは無い
「あの・・・柳生次郎に用があるんですけど・・・」
「柳生次郎?・・・今、配達に出てるんだけど、何の用?」
「僕の名前は高橋大五郎、、柳生次郎に轢き殺された高橋一刀の息子です、父の仇を討ち取るためにやってきました」
僕の後ろで、山田くんが竹刀を構えた
おばさんが笑いだした「ガハハハハ、仇討に来たのかい?ガハハハハ、こりゃおかしい〜〜〜」
山田くんは赤くなって竹刀を下げた
「高橋・・・どうする?」
僕は高橋には何も答えず、おばさんに向かって怒鳴った
「笑い事じゃない!僕のお父さんは柳生次郎の車に撥ねられて死んだんだぞ!父と二人暮らしだった僕は、これから一人で生きて行かなくていけないんだ!」
おばさん笑うのを止めた
「ごめん坊や・・・そうだったね、おばさん悪かったわ」
「柳生次郎を匿うのだったら、一緒に成敗してやる!」
「匿っているわけじゃないのよ、本当に出かけているの、もうすぐ帰ってくるから待っていて」
おばさんは先ほどとは打って変わった優しい声で言った
「柳生くんは、坊やの家にご焼香に行ったりしなかったの?」
「一度も来てません!」
「それは、よくないわね・・・自分に落ち度が無くても、それくらいの事はしなくちゃね・・・」
僕はその一言にカチンと来た
「落ち度が無い?・・・と言うことは、僕の父に落ち度があったと言うことですか?」
「だって、そうじゃない、お酒飲んで、信号無視したのは、坊やのお父さんよ」
「坊やじゃない!高橋大五郎だ!」
僕は怒鳴った
「たとえ父に落ち度があったとしても、僕は柳生次郎を許しはしません!それが男の生きる道です!」
おばさん困ったような顔でドアの中を振り向いた
誰か助けに来てくれないかなと思っているのだろうが、会社の中に居るおじさんたちは、触らぬ神に祟り無しって感じで息を凝らしている
そこへ、一台のトラックが戻ってきた
おばさんホッとした
「柳生くんが帰って来たわ」
20過ぎくらいのひょろっとした男がトラックから降りてきた、目的の柳生次郎に間違いないだろう
僕はすぐに駆けより、名乗りを上げた
「拙者、高橋大五郎!高橋一刀の息子なり!父の仇、柳生次郎!勝負しろ!」
僕は隠し持っていた包丁を出した
包丁が日の光を反射してキラリと光った
後ろでは山田くんが竹刀を構えた
「不肖、山田竜夫、助っ人いたす!」
柳生次郎びっくりして後ろに下がった
「高橋の息子?」
「そうだ!」
「ご・・・ごめん・・・俺のせいじゃないんだ・・・仕方なく・・・」
そう言うとトラックに飛び乗りアクセルを踏んだ
トラックは砂利を撥ね飛ばしながら道路に飛び出し走り去った
「おのれ!卑怯者!」
僕と山田くんはトラックの後を追った
つづく