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 僕は一人で北を目指して歩いた
北極星のポラリスを目標に歩けば間違いない
街の外れまで歩くと夕方になってしまった
仕方なく公園のベンチに座って山田くんのくれたおにぎりを食べた
大きな梅干しが入っていた
その日は疲れたので、公園のベンチの下に隠れるようにして寝袋に入った
警官に捕まったら大変だ

翌朝、公園の水道で顔を洗っていると
「高橋く〜〜〜ん」と声がした
公園の入り口を見ると、山田くんと由美ちゃんが自転車を押しながら近づいてきた
「山田くん!どうしたんだい?」
リュックを背負った二人は僕のそばに自転車を止めた

「やっぱり、高橋くんを一人で行かせるわけにいかないからさ」
「あたしたちも一緒に行くことにしたの」
僕はびっくり
「一緒に行くって・・・学校はどうするんだい?」
「だって、どうせ来週から夏休みだから」
「北海道は涼しいでしょ」
「涼しいでしょって・・・遊びに行くわけじゃないよ」
「分かってるわよ、ちゃんと仇討ちの手伝いはするわ」
「でも、お父さんお母さんが心配するよ?」
「大丈夫、ちゃんと書き置きしてきたから」
それだけでいいのかなぁと、ちょっと心配になったけど
でも僕はとっても嬉しかった
ホント言うと、ひとりで心細かったんだ、昨日も寝袋の中で泣いちゃったし・・・

「よし!じゃあ北海道に向かって出発だ〜〜〜!」
「お〜〜〜〜!」

こうして三人で歩きだした
自転車は公園に置いていくことにした

「夏までに北海道に着きましょうね、冬なんかになったら大変だから」
「うむ!そうしよう!」
「でも・・・北海道まで何キロくらいあるの?」
「ちょっと待って・・・」
僕は立ち止まって、背中のリュックから子供大百科取りだした
「え〜〜と、700キロくらいかな・・・」
「700キロって・・・一日10キロ歩いて70日ってことね、夏休みが終わっちゃうわ!」
由美ちゃんが大声で叫んだ
僕もちょっと心配になった
一日10キロ歩くって・・・大変かも・・・
「やっぱり自転車持ってきたほうが良かったかな・・・」
「でも、二台しか無いんじゃ・・・」
「交代で乗ればいいんじゃない!」
そんなわけで、また公園まで戻って来た

突然!由美ちゃんが閃いた
「末吉くんが新しい自転車買ったって自慢してたわね!あれをここに持ってきてもらおう!」
由美ちゃんは公衆電話で末吉くんに電話した
末吉くんが来るまで僕らは公園のブランコで遊んでいた
昼ころにやっと末吉くんが新品の自転車でやってきた

「も〜〜遠かったよ〜〜、僕に何の用なのさ?」
ブツブツ文句言ってるけど、末吉くんは由美ちゃんが好きだから、言うことはすぐに聞くのだ
「末吉くんの自転車にちょっと乗ってみたかったの、いいでしょ?」
「いいけど・・・汚さないでよ」
「大丈夫大丈夫」
そう言って自転車に乗った由美ちゃんは「キャッホ〜〜〜!」と叫んで公園から走り出た
末吉くんは慌てて追いかけて行った
「待ってよ〜〜〜!」

僕と山田くんは二台の自転車に乗って、反対側の入り口から外に出た
町はずれの橋のたもとで、由美ちゃんと合流した
「末吉くんは撒いたから大丈夫よ、さあ行きましょう!」
由美ちゃんはこういう悪知恵は働くのだった

こうして、僕たちは三台の自転車で、一路北を目指すのであった!


つづく

 走って追いかけても無駄だった
トラックは黒い排気ガスを撒き散らして走り去った
「高橋〜〜もうダメだよ〜〜」
山田くんは荒い息でへたり込んだ

「逃がさないぞ〜〜〜!」
僕は立ち止まり、走り去るトラックに向かって叫んだ
山田くんのそばまで戻り
「さっきの運送会社であいつの住所を聞いてこよう」
帰りたい素振りの山田くんを無理やり引っ張って運送会社へ戻り、柳生次郎の住所を聞いたが、教えてくれなかった

「高橋くん・・・俺もう家に帰らなくちゃ」
「まだ、仇討ちは終わってないよ・・・最後まで付き合ってくれるんじゃないの?」
「だって、住所が分からないなら、仕方ないじゃん」
「運送会社を見張っていれば、きっと現れる、僕はずっと隠れて見張るよ、山田くんはまた明日来てくれればいいから」
「ずっと・・・って・・・家に帰らないの?」
「帰ってもお父さんは居ない・・・僕の帰る場所はもう無いんだ・・・」
「分かった、じゃあ、あとで何か食い物持ってきてやるよ」
「ありがとう」

山田くんは竹刀を肩に乗せて帰って行った
頼もしい友だ

僕は運送会社の入り口が見える場所に隠れて待った
夕方になってから、山田くんがおにぎりを持ってきてくれた
おにぎりの中には大きな梅干しが入っていた
持つべき者は友達だ

夜になっても運送会社の灯りは消えなかった
しかし、たまにトラックが戻ってきても、柳生の姿は無かった
いつの間にか寝てしまい、新聞配達の自転車の音で目が覚めた

伸びをして、固くなった身体をほぐした
喉が渇いたので、運送会社の外にある水道で水を飲んだ
しばらくすると、学校へ行く生徒たちがゾロゾロと歩いて来る
僕は運送会社の前で立ったまま、それを見ていた
同じクラスの由美ちゃんが僕を見つけて声をかけてきた

「高橋くん!何してるの?」
「僕はいま仇討ちの途中なんだ」
「かたきうち?何それ?」
「女子供には関係の無いことだ」
由美ちゃんムッとして
「あんただって子供じゃないの」
「拙者は子供ではござらん!」
「なに言ってるの、去年学校でオシッコもらしたくせに」
「うるさい!邪魔するな!」
「馬鹿みたい」
由美ちゃんは走り去りながら「ば〜か!ば〜か!」と繰り返し叫んだ
だから、女は嫌いだ

運送会社のおばさんが出勤してきた
僕は駆けよった
「高橋大五郎でござる!柳生次郎の住所を教えてもらうまで、ここは動きません!」
おばさんびっくりして
「あんた、まだ居たの!」
「はい!」
「昨日の夕方、柳生くんから電話来たのよ」
「何?」
「会社辞めるって、だからここに居ても、柳生くん来ないわよ、アパートも解約して田舎に帰るって言ってたわ」
「何だと!?おのれ卑怯者!逃げたか!」
呆れるおばさん
「あんたもおうちに帰りなさい」
「帰る家はござらん!仇討ちが出来るまで帰りません!柳生次郎の田舎を教えてください!」
「確か、北海道だったわよ」
「北海道でござるか・・・」
「そんな遠くまで行けないでしょ?帰りなさい」
「そんなことで諦める拙者ではござらん!それでは失礼!」

そして、僕は北海道に向かって歩き始めた
途中、学校に行く山田くんがおにぎりくれた
山田くんに別れの挨拶をして、一路北へ!


つづく






新聞に掲載されていた犯人の名前は「柳生次郎」
M運送に勤務していると書かれてあった

僕は山田と二人で、M運送に出かけた
郊外のファミレスの隣に、目的の運送会社があった
小さな建物の横に2台のトラックが止めてあった
このうちの1台が、父を轢き殺したトラックなのかも知れない・・・
そう思うと無性に腹が立ってきた

僕は運送会社のドアの前で大声を出した
「柳生次郎!出てこい!」
ドアのガラス越しにおばさんの顔が現れた
キョトンと僕らを見ている
「柳生次郎!出てこい!」
また怒鳴った
おばさんはドアを開けて
「うるさいわね!何なのよ!?」
ガラガラ声で怒った
なんか、学校の数学の先生を思い出して冷や汗が出た
「柳生次郎を呼んでください!」
大声で怒鳴った
おばさんはそれ以上の大声で「普通の声で言いなさい!」と怒鳴った
「はい・・・」
僕は素直に頷いた
こんな、おばさんに逆らうほど無駄なことは無い

「あの・・・柳生次郎に用があるんですけど・・・」

「柳生次郎?・・・今、配達に出てるんだけど、何の用?」
「僕の名前は高橋大五郎、、柳生次郎に轢き殺された高橋一刀の息子です、父の仇を討ち取るためにやってきました」
僕の後ろで、山田くんが竹刀を構えた
おばさんが笑いだした「ガハハハハ、仇討に来たのかい?ガハハハハ、こりゃおかしい〜〜〜」
山田くんは赤くなって竹刀を下げた
「高橋・・・どうする?」
僕は高橋には何も答えず、おばさんに向かって怒鳴った
「笑い事じゃない!僕のお父さんは柳生次郎の車に撥ねられて死んだんだぞ!父と二人暮らしだった僕は、これから一人で生きて行かなくていけないんだ!」

おばさん笑うのを止めた
「ごめん坊や・・・そうだったね、おばさん悪かったわ」
「柳生次郎を匿うのだったら、一緒に成敗してやる!」
「匿っているわけじゃないのよ、本当に出かけているの、もうすぐ帰ってくるから待っていて」
おばさんは先ほどとは打って変わった優しい声で言った
「柳生くんは、坊やの家にご焼香に行ったりしなかったの?」
「一度も来てません!」
「それは、よくないわね・・・自分に落ち度が無くても、それくらいの事はしなくちゃね・・・」
僕はその一言にカチンと来た
「落ち度が無い?・・・と言うことは、僕の父に落ち度があったと言うことですか?」
「だって、そうじゃない、お酒飲んで、信号無視したのは、坊やのお父さんよ」
「坊やじゃない!高橋大五郎だ!」
僕は怒鳴った
「たとえ父に落ち度があったとしても、僕は柳生次郎を許しはしません!それが男の生きる道です!」

おばさん困ったような顔でドアの中を振り向いた
誰か助けに来てくれないかなと思っているのだろうが、会社の中に居るおじさんたちは、触らぬ神に祟り無しって感じで息を凝らしている

そこへ、一台のトラックが戻ってきた
おばさんホッとした
「柳生くんが帰って来たわ」
20過ぎくらいのひょろっとした男がトラックから降りてきた、目的の柳生次郎に間違いないだろう
僕はすぐに駆けより、名乗りを上げた
「拙者、高橋大五郎!高橋一刀の息子なり!父の仇、柳生次郎!勝負しろ!」
僕は隠し持っていた包丁を出した
包丁が日の光を反射してキラリと光った
後ろでは山田くんが竹刀を構えた
「不肖、山田竜夫、助っ人いたす!」
柳生次郎びっくりして後ろに下がった
「高橋の息子?」
「そうだ!」
「ご・・・ごめん・・・俺のせいじゃないんだ・・・仕方なく・・・」
そう言うとトラックに飛び乗りアクセルを踏んだ
トラックは砂利を撥ね飛ばしながら道路に飛び出し走り去った
「おのれ!卑怯者!」
僕と山田くんはトラックの後を追った

つづく


 父が死んだ
酔って自転車に乗っている時、信号無視をして車に撥ねられ・・・即死だった
目撃者の話では、父は夜間なのに無灯火のまま、猛スピードで交差点に進入したという
撥ねた車の運転手はスピードを出していたわけでは無いが、あまりに突然のことで避けきれなかったと供述している
非は全て父にあった
過失割合が95と5と認定され、撥ねた車の運転手には不起訴処分になった

僕が生まれてすぐ、母が亡くなった
それから父は再婚もせず、中学二年生になった今まで、ずっと僕を育ててくれた
父兄参観日にはいつも来てくれた
毎朝早く起きて弁当を作ってくれた
僕が風邪を引いて寝込んだ時も一晩中看病してくれた
そんな素晴らしい父を殺されたのに・・・僕は何もできない・・・

何もしなくていいのか?
父のために?

僕は決意した
父の仇打ちをするんだ!
それが、愛してくれた父に報いることになる

しかし、中学二年の僕に仇討が出来るだろうか?
拳銃も無い
刀も無い・・・
取りあえず、助っ人を頼もう

僕の親友の山田くんは剣道初段の腕前だ
山田くんに頼むことにした
山田くん快諾してくれた
「おう!高橋に頼まれて嫌とは言えないよね!なんたって俺たちは親友だ!」
素晴らしい友を持って、僕は幸せ者だ

竹刀を持った山田くんを連れて仇討に出かけた


つづく

 台所で詠子が何かやっている
「何してるんだ?」
「チョコレートのクッキー作ってるの」
見に行くと、台所に薄力粉とか砂糖とか、いろんなもの広げてる
そうか、明日はバレンタインデーだ
しかし、1969年当時それほど普及はしていない
「誰に渡すんだ?」
「会社の人よ」
詠子はまだタツノコプロダクションで色塗りの仕事をやっていた
「義理チョコか」
「当たり前じゃん!」

最近詠子も色っぽくなってきた
もうすぐ16歳か・・・
風呂上がりの上気した肌を見てると、時々ドキッとする

いけないいけない!
そんなつもりでこの時代に連れてきたわけじゃないのだから・・・

翌日
詠子は俺にもチョコレートクッキーをくれた
「義理だけどね」
そう言いながらニッコリ微笑む詠子
「ふん」
感心なさそうに受け取った俺だが、心の中は有頂天
「そうだ!健司くんにもチョコレート上げるんだぞ!」
「だって、会わないもん、おじさんから渡しておいて!」
そう言って、健司くん分のクッキーを放ってよこすと、ドアを閉めて駆けて行った

健司の家へ歩きながら、作戦が遅々として進まないことを反省する
健司はまだ子どもだから、積極的に行くこともできないし、歌もそんなにうまくないし、作詞をさせてもつまらないし、ギターだって上達しない・・・
しかし、それは全て自分に返ってくる
自分自身に文句を言っても仕方ない・・・
何か大きなきっかけを作らなくちゃ・・・
歌声喫茶に行って昔を懐かしんでいる場合じゃない・・・反省

俺は年取ってから、後悔が一つある
無銭旅行でも何でもいい、若い時に外国に行かなかったことだ
そういう冒険心が俺には足りなかった

そうだ!
健司を未来に連れて行こう
そして、未来の文化に触れさせよう!
そうすることによって、あいつの才能が花開くかも知れない!


つづく





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