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 その日以来

お爺さんは起き上がるのも辛いようで、狩りに出なくなった

僕はお爺さんの代わりに毎晩狩りをして獲物をたくさん捕まえた

「お爺さん、ほら!こんなに大きなネズミ捕まえたよ」

お爺さんは横になったままニッコリほほ笑んで

「おチビちゃん、すごいのぉ、偉いぞ」

そう言って誉めてくれる

お爺さんに誉めてもらうのが、僕の一番の楽しみだ!

 

そんなある日

ネズミを捕まえて帰ってくると、オルゴールの音が微かに聞こえたような気がした

  僕は二階に駆けあがった


でも、お爺さんの姿はどこにも無かった

その晩僕は、お爺さんが帰って来てもすぐ分かるように、オルゴールの横で布にくるまって寝た

幾枚もの布から、お爺さんの匂いがする

涙が溢れそうになったので、オルゴールの蓋を開けた

オルゴールの優しい音色が廃屋の中に響き渡る

目を閉じると

雲の上を駆けまわるお母さんと、お爺さんの姿が見える

笑いながらチョウチョを追いかけるお母さん

お爺さんはウサギのようにぴょんぴょんお尻を振りながら走っている

良かった!お爺さんここに居たんだ!

僕は嬉しくなってふたりの走り回る姿をずっと見ていた

 

それからしばらくして廃屋は壊され

オルゴールの行方も分からなくなった

きっと今頃、お母さんとお爺さんは雲の上でオルゴールをきいているんだろうな・・・

 

スズメさん、お母さんとお爺さんに伝えてください

僕はふたりとも大好きです

だから、今はとっても寂しい・・・

でも、心配しないでください

この町にはガウ子さんもいるし、カラスさんもいるし、たくさんの猫たちもいます

みんな大好きです

誰も愛さないで、ひとりぼっちで生きていくなんて、無理だよね・・・

愛する人がいたから、楽しかったし、幸せだった、寂しくて悲しくて、泣きたくなることもあるけど・・・それは愛する人がいたことの証し・・・

 

愛すること、愛されること

それは、猫の人生にとって、大切なことだと思います・・・

ありがとうお爺さん・・・


おしまい

 

 朝からたくさん雪が降った日

雪は夜になっても降りやまず、縁の下より高く積もっていた

それでも、お爺さんは狩りに出かけようとした

ちょっと心配だったから、声をかけてみた

「お爺さん、今日は止めたほうがいいよ?雪はやみそうにないし・・・」

お爺さんは僕のほうをチラッと見て「大丈夫じゃ」と言って外に飛び出した

でも、体が半分以上雪に埋もれている

まるで海を泳いでいるみたいだ

僕は縁の下から首を伸ばして、お爺さんの姿が見えなくなるまで見守っていた

しばらくして、雪だるまみたいなお爺さんが戻ってきた

「やっぱりダメじゃ・・・」

体を震わせて雪を落とした

「おチビちゃんは、ずっとここにおったのかい?」

「うん、お爺さんが帰ってこなかったら迎えに行こうと思って、ここで待機してました」

お爺さんは嬉しそうに笑った

でも突然くしゃみをして体を震わせた

「仕方ないから、寝るとしようかの・・・」

「うん、それがいいよ、体が冷えちゃったんだね、きっと明日には雪はやむよ」

お爺さんは何度もくしゃみをしながら階段をあがっていった

 

その日もずっと雪は降り続き、縁の下から外を見ることもできなくなった

そしてまた夜が来たけど、お爺さんは二階から下りて来なかった

僕も狩りにいけないから、ソファで丸まって寝た

何もすることが無い時は寝るのが一番

猫はいつでも寝られるんだ・・・

 

お爺さんのセキの音で目覚めたのは

朝日が壁の隙間から差し込んでいる時だった

割れた窓から外を見ると、やっと雪が降りやんでいた

一面の雪が朝日にキラキラ輝いている

僕は階段の下まで行って声をかけた

「お爺さん大丈夫?・・・」

「・・・大丈夫じゃ・・・」

いつもの元気が無い

僕は心配だったけど、二階に上がるとお爺さんに叱られるから我慢した

その日は一日中、お爺さんのセキが聞こえてきた

そして、夜になってもお爺さんは下りて来なかった

お腹が空いていたので、僕は狩りに出かけた

 

獲物を捕まえて廃屋に戻ってきた、まだお昼過ぎだ

階段の下に行って、二階に声をかけた

「お爺さん!お爺さん!」

お爺さんのセキが激しく聞こえた

心配になって、叱られるのを覚悟で階段を上った

お爺さんは布にくるまって苦しそうにセキ込んでいた

「お爺さん!」

視点の定まらない目で僕を見上げたお爺さんの体は熱かった

「お爺さん、ネズミを捕まえたよ、食べてください」

お爺さんは力なく頷いて体を震わせた

僕は家の中にある古びた洋服や床に落ちてるカーテンなどを集めて、お爺さんの周りに置いた

「暖かくしないと治らないよ」

お爺さんはトロンとした目で僕を見上げて

「おチビちゃん・・・ありがとう」

お爺さんにありがとうなんて言われるのは初めてだ

僕は照れくさくて前足あげて立ちあがった

「お爺さん、僕はもうおチビちゃんじゃないよ、ほら、こんなに大きくなったんだ」

胸を張って見せた

「・・・ほんとじゃなあ・・・もうそんなに大きくなっていたなんて・・・気付かなかった・・・それじゃこれからは何と呼ぼう?・・・おデブちゃんかな?」

「それも嫌だな・・・今まで通りおチビちゃんでいいよ」

お爺さんは微笑んだ

「おチビちゃん・・・オルゴールを聞きたいと言っておったじゃろ・・・聞かせてあげるよ」

「えっ!ホント!いいの?嬉しいなあ」

「オルゴールの蓋を開けてごらん」

前足で蓋を持ち上げると、中から音がこぼれ出た

 

目をつむって聞いていると

体が軽くなっていくような気がする・・・

フワフワ浮いていくような不思議な気分

風が吹かれて、僕の体はクルクル回りながら、屋根の上を漂う

電線に止まっているすずめたちがびっくりして見ている

僕は笑いながらすずめたちの周りを飛び回る

強い風が僕を上空に運ぶ

あっと言う間に雲の上に出た、見下ろすと

雲の上でお母さんが楽しそうに走り回っている

お母さんここにいたんだ!

「お母さ〜〜〜ん!」

お母さんは僕を見てニッコリ笑った

こんなに楽しいとこにいたから、お母さんは帰ってくるの忘れちゃったんだな

お母さんの楽しそうな顔を見ていると

僕の心はポカポカ暖かくなってきた

 
目を開けると

いつもの廃屋の中

壁の隙間から午後の日差しが入り込んで、クモの巣がキラキラしている

お爺さんがゆっくりと話し始めた

「ワシは産まれてすぐに、この家に連れてこられた

いまはこんなボロボロになってしまったが、その頃はとっても綺麗で輝いておった・・・いつも笑い声に溢れていた・・・

小さなころのワシは、今みたいに薄汚れていなくて真っ白じゃった・・・

自分でいうのもなんじゃが・・・とっても可愛かったぞ・・・

ワシに尻尾が無いのを、不思議に思うじゃろ・・・ワシはマンクスという種類の猫なんじゃ・・・ワシのご先祖様がノアの箱舟に乗ろうとした時、扉に尻尾が挟まれてちぎれてしまったらしい・・・ご先祖様も罪なことしてくれたもんじゃ・・・尻尾が無くても、家族みんながワシを可愛がってくれた

お婆ちゃんと子供たち・・・

しかし、いつの間にか子供たちがいなくなり、お婆ちゃんもいなくなってしまった・・・

ひとりぼっちになったワシはとっても寂しかった・・・

誰も住まなくなったこの家はどんどん荒れ果ててしまった

でもワシはこの家を離れることができなかった・・・

ここにはたくさんの思い出がある

このオルゴールは、お婆さんが大切にしておった・・・

お婆さんの膝の上に丸まって、オルゴールを聞く

やわらかな風が部屋を通り抜ける

お婆さんがワシの背中を優しくなぜる・・・

オルゴールを聞くと、明るく輝いていた頃の思い出が蘇ってくるんじゃ・・・誰かを愛することはとても大切なことじゃ・・・

しかし、愛する人がいなくなってしまった時、救いようのない悲しみに襲われる

だからわしは、もう二度と飼い猫にならない・・・誰も愛さないと決めたんじゃ・・・愛するものはいつか去っていく・・・ワシはおチビちゃんと出会った時、それが怖かった・・・おチビちゃんを愛するようになるのが怖かったんじゃ・・・だから冷たくしてしまったんじゃ・・・御免よ・・・」

 

僕はお爺さんに抱きついた

「お爺さん・・・大好き!」

「うん、うん・・・ありがとう・・・」

お爺さんの目から涙が溢れた

つづく


 しかしそれからも

僕とお爺さんの関係はそんなに変わらなかった

二階に上がらせてもくれないし

僕が話しかけても、必要なことしか話してくれない

僕はお爺さんとたくさんたくさん話しをしたいんだ

下らない話しとか、役に立つ話しとか、誰と誰が付き合ってるとか別れたとか、そんな町の噂話しとか、ネズミの簡単な捕まえ方とか

どんな話しでもいいんだけど・・・

お爺さんはそうじゃないみたい

いつもすぐに二階にあがってしまう

時々、とっても寂しい気持ちになって、階段の下から呼びかけて見る

「お爺さん、お爺さん、お話ししましょう」

でも、いつも決まって

「・・・話しがある時はワシが下に行く・・・」と冷たい返事

取りつく島も無いって、こういうこと

 

そんなある日、僕は気がついた

夜明け前、ソファで丸くなって寝ていると

お爺さんが狩りから戻ってきて階段をあがっていく

キイキイと微かに階段が軋む

僕は・・・お爺さん帰って来たんだ・・・と思いながら、階段が軋む音を聞いていた

いつもならそのままウトウトと眠りにつくのだが

その日はなかなか寝付けなかった

しばらくソファの上でまどろんでいる時

あの音が聞こえてきたんだ

 
その夜、狩りに出かける前のお爺さんを捕まえて聞いてみた

「お爺さん、二階から聞こえてきたあの音は何ですか?」

「あの音?」

「鈴を転がしたような綺麗な音、タランタラン♪とか」

お爺さんは眉間に皺を寄せて、困っているみたいだったけど

重い口を開いた

「・・・オルゴールの音じゃ・・・」

 

おるごおる?

おるごおるって何ですか?って聞こうと思ったら

お爺さんはそのまま狩りに行ってしまった

 

おるごおる・・・

そばで聞いてみたいな、おるごおる・・・

そんなある夜

僕は狩りに出かけるために縁の下から駆けだそうとしていた

空を見上げるとお月さまも星たちも姿を隠していた

ちょっとカッコつけて呟いた

「狩りにはもってこいの夜だ」

別に意味は無い、何となく呟いてみたかっただけ

ニヤッと笑って、夜の町に駆けだした

なるべく暗い場所を選んで駆けて行く

 

スタスタスタスタ

足音立てない猫走り

スタスタススタスタ

 

夜遅くまで煌々と明りが点いた通りがある

ここは酔っぱらった人間の溜まり場、猫に取っては要注意地点だ

酔っぱらいに蹴飛ばされたり、踏んづけられた猫がたくさんいる

僕はお店とお店の間の細い路地を猫走り

表の通りを渡る時は左右を見回して一気に渡る

時々人間に見つかりそうになることもあるけど

僕の体は茶色い毛で覆われているので、灯りの中に出なければ大丈夫

 

でも、その夜はしくじった

お店から出てきた二人のお姉さんが僕を見つけた

僕は自販機の横に隠れているつもりだったんだけど、尻尾が見えていたんだ

弘法も筆の誤り

河童の河流れ

頭隠して尻尾隠さず

まあそんなことはどうでもいい

 

すかさず逃げようとしたんだけど、尻尾をギュッと握られた

人間の女は乱暴だ、とくに酔っている時は

「可愛い〜〜〜!」と叫んでショートカットのお姉さんが僕を抱きしめた

酔っぱらいは力の加減が分からないみたい、両手で僕のお腹をつかんだから、口から色んな物が出てきそうだったので、とりあえず叫んでみた

「きゃ〜〜〜!助けて〜〜〜!」

腕の中から抜け出そうとしたが、なんかマタタビみたいないい匂いがして、体から力が抜けて、トロ〜ンとなってきた

 

セミロングのお姉さんが頭をなでてくれながら

「可愛い〜〜!」と叫んだ

ショートカットが「野良猫かしら?」

セミロングが「そうかも、でも可愛い〜〜〜!」

ショートカットが「おうちで飼おうかしら?」

セミロングが「いいんじゃない〜〜〜!」

あ〜〜〜もうおしまいだ〜〜〜!飼い猫にされてしまう〜〜〜!

自由を我らに!と叫び出そうとした時

路地からお爺さんが飛び出してきてショートカットの太い足に体当たりした!

「ギャッ!」

お姉さんが尻もちついて僕を放した

「逃げるんじゃ!」

僕はお爺さんと走った

ショートカットとセミロングの怒鳴り声が聞こえたけど

構わず走った

公園を駆け抜け、ビルの中を駆け抜け

一目散に廃屋に走った

 

ハアハアハア・・・

廃屋に戻り、床に倒れ込んだお爺さんと僕は、どちらからともなく、顔を見合わせて笑った

「お爺さん、ありがとう」

「なんの、なんの・・・人間には気をつけなくちゃな・・・」

「でも、優しそうな人だったよ、いい匂いもしたし・・・」

「そんなことに騙されちゃいかん、飼い猫になったら猫はおしまいじゃ」

「・・・お爺さんは飼い猫になったことは無いの?」

何気なく聞いてみた、だけど、お爺さんは悲しそうな顔になって

何も言わず二階に上がってしまった

 

また冬がやってきて僕はさらに大きくなった

ネズミよりも早く走れるようになった

獲物を捕まえるのは簡単だ

もう、お腹ペコペコなんてことはない

 

それでも、いまだにお爺さんは魚の頭やネズミの尻尾を置いていく

「お爺さん、僕はこんなに大きくなりました、狩りだってうまくなりました、だからもう大丈夫です」

胸を張って言いました

お爺さんは「そうかい・・・」と言って、ちょっと寂しそうな顔をするけど

また次の日になると、カエルの足が置いてありました

僕は困ったなあと思いながらも、お爺さんに感謝しながら食べました

お爺さんは相変わらず無口で無愛想だけれど

やっぱり優しいんだ・・・


つづく

  しかしそれからも

僕とお爺さんの関係はそんなに変わらなかった

二階に上がらせてもくれないし

僕が話しかけても、必要なことしか話してくれない

僕はお爺さんとたくさんたくさん話しをしたいんだ

下らない話しとか、役に立つ話しとか、誰と誰が付き合ってるとか別れたとか
そんな町の噂話しとか、ネズミの簡単な捕まえ方とか

どんな話しでもいいんだけど・・・

お爺さんはそうじゃないみたい

いつもすぐに二階にあがってしまう

時々、とっても寂しい気持ちになって、階段の下から呼びかけて見る

「お爺さん、お爺さん、お話ししましょう」

でも、いつも決まって

「・・・話しがある時はワシが下に行く・・・」と冷たい返事

取りつく島も無いって、こういうこと

 

そんなある日、僕は気がついた

夜明け前、ソファで丸くなって寝ていると

お爺さんが狩りから戻ってきて階段をあがっていく

キイキイと微かに階段が軋む

僕は・・・お爺さん帰って来たんだ・・・と思いながら
階段が軋む音を聞いていた

いつもならそのままウトウトと眠りにつくのだが

その日はなかなか寝付けなかった

しばらくソファの上でまどろんでいる時

綺麗な音が聞こえてきたんだ

 

その夜、狩りに出かける前のお爺さんを捕まえて聞いてみた

「お爺さん、二階から聞こえてきたあの綺麗な音は何ですか?」

「綺麗な音?」

「鈴を転がしたような綺麗な音、タランタラン♪とか」

お爺さんは眉間に皺を寄せて、困っているみたいだったけど

重い口を開いた

「・・・オルゴールの音じゃ・・・」

 

おるごおる?

おるごおるって何ですか?って聞こうと思ったら

お爺さんはそのまま狩りに行ってしまった

 

おるごおる・・・

そばで聞いてみたいな、おるごおる・・・

つづく

 

夏になって、僕は少しだけ大きくなった

ネズミに噛まれたりすることも無くなってきた

そんなある日、ネズミを追いかけているうちに、知らない街角に入り込んで、迷子になってしまった・・・ネズミは逃げちゃうし、帰り道は分からないし、暗い路地の奥でひとりぼっち

何か嫌〜な雰囲気を感じて、塀を見上げた、黒い大きな塊が塀の上に乗っかっている

最初は犬かと思った、それくらい大きかったんだ

雲のあいだから月の光が黒い大きな塊を照らし出すと、犬だと思っていた黒い物は大きな猫だった

筋肉が盛り上がり、体中に傷跡がある

「殺し屋!?」

そういえば、お爺さんがこんなことを言っていた

 

・・・町はずれには行っちゃいかんぞ、あそこらへんはヨコヅナと呼ばれるボスネズミが牛耳っている、そいつはものすごく大きくて相撲取りのようじゃ、見つかったが最後、猫だろうと犬だろうと引き裂かれてしまう、噂ではクマでさえ敵わなかったそうじゃ・・・

 

その時僕は「へえ〜〜」と頷いたけれど、相撲取りを見たことがなかったので、どれくらい大きいのかよく分かっていなかった

でも本物を目の前にしてよく分かった

相撲取りってこんなに大きいんだ!

 

ボスネズミは塀から飛び降りた

地面が揺れた

僕は腰を抜かして尻もちをついた

ボスネズミは血走った目をギラギラさせて、悠然と近寄ってきた

腰が抜けたので、僕はどうすることもできなかった

怖くて声も出ない!

僕の前に来ると、ボスネズミは立ちあがった

見上げようとすると、体がひっくり返りそうになるくらい大きい

恥ずかしながらおしっこもらした

 

「食べないで〜〜〜!僕はそんなに美味しくないよ〜!病気持ちだから食中毒起こしちゃうかもしれないよ〜〜〜!」と叫びたかったけれど、声が出ないから、テレパシーで伝われ!と思った・・・でも無理だった

その時!

お爺さんの声が聞こえた

「この子はワシの知り合いじゃ!ワシが相手をする!」

振り向くと、お爺さんが仁王立ちしてボスネズミを睨みつけていた

しばらくお爺さんとボスネズミは睨みあっていたけど

ボスネズミが舌打ちしながら引き上げて行った

「お爺さんありがとう〜!」

僕はお爺さんに抱きついて嬉し涙を流した

そんなお爺さんの体も小刻みに震えていた・・・

僕はお爺さんが大好きになった

つづく

 

美味しい魚をたくさん食べている夢を見た

魚の臭いが僕の体を包んでいる

ホントにそばに魚がいるみたいだなぁ〜・・・と思って夢から覚めた

 

そしたら、ホントに目の前に魚の頭が置いてあった

よだれが溢れてきて、気が付いたら魚の頭にかじりついていた

美味しい!美味しい〜〜!

残さず食べた

お腹いっぱいってほどでもなかったけれど

ちょっとだけ幸せな気分になってきた

人生って最高!なんて思いながら、前足で顔を洗った

落ち着いてから、疑問がわいてきた

・・・どうして、ここに魚の頭があったんだろう?・・・

天から降ってきたわけじゃあるまいし

サンタクロースはまだ早いし?

・・・そうか・・・お爺さんが置いていってくれたんだな・・・

ソファから飛び降りて、階段の下まで行った

二階はシーンとしているけれど、きっとお爺さんがいるに違いない

「ありがとう、お爺さん」前足を合わせて小さく囁いた

 

次の日もその次の日も

お母さんは帰ってこなかった

お爺さんは困った顔をしながらも

「お母さんが帰ってくるまで、ここにいていいよ」と言ってくれた

 

僕とお爺さんの生活が始まった

僕は一階、お爺さんは二階

僕が二階に上がろうとすると怒られる

どうして二階に上がっちゃいけないの?と聞いてみた

「ワシは一人暮らしが好きなんじゃ」

「だって、僕はお爺さんとお話しがしたいんだもん!」

ちょっとブリっ子して甘えてみたけど

お爺さんはプイッと顔をそらして階段を上がっていった

優しかったり冷たかったり、お爺さんは複雑だ

 

その頃僕はまだ小さかったから、狩りは苦手だった

魚を取ろうとして用水路で溺れたり、スズメを捕まえようとしてカラスに突かれたり、トカゲを追いかけて屋根から転げ落ちたり、ネズミを追いかけて反対に噛まれたり・・・

獲物を取れない日のほうが多い

そんな時は自己嫌悪に襲われながら、ソファの上で丸くなって寝る

でも、目覚めるといつも枕元に魚の頭だったり、ネズミの尻尾だったり、お爺さんの御裾わけが置いてある

僕は食べる前に、前足を合わせ「お爺さんありがとう」

感謝の言葉を言うのを忘れなかった

つづく

 泣き疲れてぐったりした頃

「・・・どうしたんだい、おチビちゃん・・・」

と優しい声がした

顔をあげると、猫のお爺さんが僕の顔を覗き込んでいた

汚れて灰色になっているけれど、毛並みは柔らかそうだった

丸い体に丸い顔、そして優しい声

僕はしゃくり上げながら

「お母さんが帰ってこないの・・・」と鼻をすすった

「どこに行ったんだろう・・・お爺さん知ってる?」

お爺さんは優しく微笑んで

「きっとおチビちゃんのために美味しい餌を探しているんじゃろう・・・心配しなくても大丈夫じゃよ」

「ホント?じゃあ、いつ帰ってくるの?」

「う〜ん・・・それは分からんが・・・」

お爺さんちょっと困った顔で

「とりあえず、ここは寒いから、中にお入り」と言って

縁の下を奥に進んだ

僕はお爺さんの後ろを歩きながら、尻尾の無いお尻を見ていた

尻尾が無いせいなのか、お爺さんはうさぎのようにピョンピョン跳ねて歩く

何となく可愛らしくて、笑いそうになっちゃった

 

床に開いた穴から廃屋に入った

中は埃がいっぱい、あちこちガラスが割れていて、壁もボロボロ、

気を付けて歩かないとクモの巣だらけになってしまう

でも、縁の下にいるよりはとっても暖かい

 

「お母さんが帰って来るまで、ここに居なさい」と言って

お爺さんは階段のほうに歩いて行く

ひとりぼっちじゃ寂しいから、付いて行こうとしたんだけど

「来たらダメじゃ、おチビちゃんはそこに居なさい」

と怖い声で言われた

優しそうだったのにどうしてだろうと思いながら

階段を上るお爺さんのお尻を眺めた

・・・ネズミに尻尾をかじられたのかな?・・・

 

僕は仕方なく窓の下に置かれたソファの上に飛び乗って

体を丸めて目を閉じた

人生辛いことばかりだ

お母さんはいなくなるし、尻尾の無いお爺さんは冷たいし・・・

人生って最悪・・・

ス〜ス〜・・・

つづく

 僕は野良猫、名前は無い

「おチビちゃん」と呼ばれていたこともあったけど・・・

でもそれは遠い昔のこと

そう呼ぶ人は今はもういない

 

住んでいるのは空き地に置き捨てられた箱の中

そこが仮の宿

終の棲家なんて、飼い猫だけの特権

仮の宿があるだけでも幸せ

世間の人が思っているとおり、野良猫の暮らしは楽じゃない

いつも空腹でお腹はペコペコ、満腹になるのは夢の中だけ

でも、野良猫には自由がある

飼い猫は家の中でしか遊べないが、僕の遊び場は町中にある

 

毎日の一番大切な仕事は獲物探し

獲物にありつけて満腹になったら、たっぷり睡眠

目ヤニで目が開けられないくらい寝たら

腹ごなしに町のパトロールへ出かける

横町のご隠居猫さんと情報交換したり

マンションに住む姑猫さんの愚痴を聞いたり

たむろしている若者たちに猫社会のしきたりを教えたり

窓の中から外を見ている血統書付きの飼い猫に前足を振ったり

でも、そういう猫たちはプライドが高いから、無視したりする猫もいる

ホントは僕が自由に外を歩き回っているのが羨ましいに違いない

 

天気の良い日はどこかの家の屋根に登り空を眺める

猫は高いところと狭いところが好きだ

人間も高い所に登るのが好きみたいだけど

僕みたいに宙返りも出来ないから、可哀そうだと思う

 

雨の日は軒下に隠れて体を丸めて

地面で跳ねる雨粒を見つめる

そうやって雨がやむのを待つんだ

やがて、雲の間から陽が差してくる

雨上がりの涼しい風は気持ちいい

そんな時は山頭火の自由律俳句を呟いてみる

 

雨にうたれてよみがえったか人も草も

 

辛いこともあるけど

楽しいこともある

それが野良猫の人生

 

僕の住んでいる町には

ガウ子さんって呼ばれている怖い女の子が住んでいる

時々、怒って火を吐くけど

そんな時は離れているのが一番

君子危うきに近寄らず、と言いますからね

そんなガウ子さんも普段はボーッとして、ドジで可愛くて、優しい女の子だ

 

ガウ子さんが買い物する時には後を付けて

買い物カゴから、お魚やさつま揚げをこっそりいただいて食事にありつく

時々憎たらしいカラスに奪われたりするけど

カラスも生きているんだから、仕方がない

 

生まれた時のことは全然覚えてない

どんな父親かもわからないし、兄弟がいたのかどうかもわからない

三島由紀夫は産湯に浸かった時の記憶があったらしいが

僕にそんな記憶力は無い

でも・・・お母さんのことはよく覚えている

お母さんの優しい目、柔らかな毛並み、おっぱいの感触・・・

 

あれは昔々のずっと昔・・・Once upon a time

雪の降る寒い日だった

お母さんは獲物を探しに雪の上に飛び出した

「ネズミを捕まえてくるからね!」

そう言いながら、雪の上に幾つもの足跡を残して駆けて行った

僕は廃屋の縁の下でじっとして、ずっとずっと、帰りを待った

僕は寂しくて悲しくて泣きたかったけど、男の子だから我慢していた

でも、お腹はぐうぐう鳴いていた・・・

 

雪がやんで、夜空にキラキラ光る星たちと真ん丸なお月さまが出て来ても

お母さんは帰ってこなかった

僕は我慢しきれなくて

「お母さ〜〜〜ん!」と叫びながら泣き続けた

つづく

 http://www.youtube.com/watch?v=ZvSgj6PdeIk&list=HL1339764432&feature=mh_lolz

初めてガウ子をゆうちゅうぶに出してみました
試作品です
恥ずかしい出来だけど、気持ち悪くておかしい(笑)


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