おヨネがいつも着替えの服と自転車を置いてある廃屋
楽園ホームからそこまで自転車でやって来て、17歳に変身する
「ゴクラクゴクラクナムアミダブツ〜〜〜!」
魔法の言葉を唱えて数珠を振り回すと変身できるのだ
17歳用の服に着替えて、練習スタジオに行こうとした時、廃屋の中に五六人の男たちが怒鳴り合いながらなだれ込んできた
あわてて柱の陰に隠れるおヨネ

「あんなことしたらまずいんじゃないか、えっ?」
「ホントだよな〜警察署長の息子が万引きなんてチャチなことやるんじゃねえよ」
突き飛ばされて転がる男
「ごめんなさい、すいません、品物は返します、お金は払います」
転がって泣きそうな男はクレイジーナイトのリーダー、ポール大分だった
取り囲んでいるのは、この町の暴力団、青森組のチンピラ連中だ
「品物返したら、ごめんなさいで済むのか?」
「それじゃ、お前の親父の意味が無いんじゃねえか?」
「そうだよ、悪い奴を捕まえるのが警察署長の仕事だからな」
「おい、ちょっと電話しろよ、警察署長に言ってやらねえとな、お前の息子が万引きしたって」
「そりゃいいや」
あわてて立ちあがるポール大分
「ごめんなさい、それだけはやめてください!お金なら幾らでも払います」
ポールはポケットから分厚い財布を取り出して中から一万円札を出そうとした
しかし、財布ごと取られてしまった
「こいつは取りあえず預かっておく、しかし、それだけで許してもらえると思ったら甘いぜ」
「じゃあ・・・どうすれば許してもらえるんですか?」
「腕の一本でも、もらおうか」
「う・・・腕?まさかそんな・・・」
両側から腕を掴まれるポール、鳴きながら哀願
「やめてください〜〜そんなことされたらギターが弾けなくなります〜〜!」

「やめるんじゃい!」
突然現れるおヨネ
長い棒を右手に持っている
青森組の連中とポールがおヨネを見た
「お・・・お前は?ハニーパイの・・・」
ポールがすぐにおヨネに気付いた

「ポールさん、万引きするなんて、あんたも情けない男じゃのう!さあ、あたしが一緒に行ってやるから、お店の人に謝るんじゃよ」
「なんだ、この女?」
チンピラ連中がすばやくおヨネを取り囲んだ

おヨネは長い棒を構えて
「やめておきな、あたしは薙刀三段だよ」
一瞬ひるむチンピラ連中
「ふん、こっちは五人だ、こんな女に負けるわけがない、みんなやっちまいな!」
「オー!」
一斉に掛かってくるチンピラたち
しかしおヨネの薙刀の威力も素晴らしい、おまけに若い肉体
あっと言う間に一人二人と倒していったが、結局捕まり壁に頭打って気を失ってしまった
ポールはなんにもしていないのに気を失っていた
チンピラたちはおヨネとポールを縄で縛り、青森組の事務所に連れて行った

組長は留守だったので、二人を床に転ばせたまま、チンピラ連中はポールから奪い取った金を持って飲みに行ってしまった、転ばされている間に、おヨネの変身時間が過ぎてしまい、お婆さんの姿に戻ってしまった

帰ってくる組長、部屋はすでに暗くなっている
明かりを付け、転がっている二人を見て組長はびっくり
明るくなったので、おヨネは目を覚ました、しかしポールは気を失ったまま

「あれ?ここはどこじゃ?」
転がっているおヨネを覗き込んでいる青森組長、おヨネ気づいて
「あんた、誰じゃ?」
覗き込んでいた青森組長、目をパチクリして
「おヨネちゃんかい?」
「う?・・・いかにも・・・」
青森組長、頬を緩めて
「俺だよ、坂下の太郎だよ」
おヨネも目をパチクリして、組長の顔を見た
「太郎・・・坂下の・・・藁ぶき屋根の汚い家に住んでいた・・・ウンコ垂れの太郎か?」
「ウンコ垂れは余計だけど、太郎だよ、思い出したかい」
そう言いながら縄をほどいてくれた、ポールはホッタラカシだけど・・・
「ここは、どこじゃい?」
「青森組の事務所だよ、俺はいまここの組長なんだよ」
「ふ〜ん・・・ウンコ垂れの太郎がヤクザの組長か・・・」
「そんな嫌そうな顔しないでくれよ・・・いろいろあってさ・・・ここの先代の組長には世話になったから・・・」
「弱い物いじめして喜んでるってわけなんだな・・・泣き虫だったくせに・・・よくあたしが助けてやったよね、忘れてないだろうな」
「覚えてるよ・・・おヨネちゃんは気が強かったからな・・・しかし、なんでこんなとこで縛られていたんだ?」

おヨネは廃屋であったことを説明した、変身のこと以外はね
「そうか、こいつは警察署長の息子か・・・馬鹿な奴だな」

「馬鹿な奴だけどさ、まあ、今回は許してやっておくれよ、あたしが叱っておくから」
「分かった」
組長はポールの頬を平手打ちして目覚めさせ、外に蹴り出した

「もう二度と万引きなんかするな!今度やったら生きて帰さないぞ!」
ポールは悲鳴をあげながら逃げ去った

「ありがとう太郎、すまなかったね」
組長は子供のようにニコニコしながら
「何か困ったことがあったら、いつでも言ってくれよ」
おヨネ、ちょっとムスッとして
「ヤクザに頼むことなんか無いよ」
そう言いながら颯爽と帰って行った
おヨネを見送りながら首を傾げる組長

・・・しかし、なんでミニスカートなんだ?・・・おヨネちゃん・・・

17歳の服装のままだってことに、おヨネ気付いてなかった・・・


つづく



 コンクールまで二週間
その日もハニーパイは練習
練習後ハニーパイリーダー香川がおヨネにこっそりと
「相談があるんだ、途中まで一緒に帰ろう」と囁いた
練習スタジオ前で石川、山形と別れ、二人は歩きだした
今日は夕方の練習だったから、外はすでに暗くなっていた
町はずれの廃屋に、おヨネのお婆さんの服と自転車を置いてあるので、そこまで横に並んで歩いた

「相談したいことって何じゃ?」
「ヨネちゃんがハニーパイに入ってくれて、俺は嬉しいんだ、ヨネちゃんが居なかったら、ハニーパイがコンクールに出ようなんて思いもしなかったしさ、ありがとう」
「ありゃ〜〜、改まってそんなこと言われると、ちょっと照れるな・・・最初はあたしのこと、嫌っていたくせに」
「嫌ってなんかいないよ!・・・マジ言うとさ・・・一目ぼれっていうのかな、可愛い子だなってすぐに思ったんだ・・・だけどさ、会ったばかりでそんなこと言うと・・・なんかチャラい感じするじゃん、だからちょっと冷たくしちゃったりしたんだけどさ・・・」
「ふ〜ん・・・何だかよくわかんないけど、あたしのこと誉めてくれてるのかな?」
「当たり前じゃないか」

廃屋に着いた
立ち止まるおヨネと香川
「ところで、相談って言うのは、何じゃ?」
香川突然おヨネの手を握ってきた
びっくりするおヨネ
「何するんじゃ?」
おヨネの顔をじっと見つめる香川
「俺、ヨネちゃんのことが好きなんだ」
ゆっくりと顔を近づけてくる香川

おヨネ思った
・・・これって、もしかして接吻?何十年もご無沙汰の接吻?・・・

香川の濡れた唇が近づいてくる
「キャ〜〜〜〜ッ!」
おヨネ、思わず香川の顔をグーッで殴っていた
「グヘッ」
腰を抜かし倒れる香川
「あっ・・・ごめん・・・」
殴られた右頬を抑える香川
「か・・・過剰防衛だぞ!」
「いやあ・・・つい、手が出ちゃってね・・・何せ接吻なんて40年ぶりくらいだから、焦っちゃって・・・エヘヘ・・・」
立ちあがる香川
「え〜?40年ぶり?何言ってんだよ、キスくらいさせてくれたっていいだろ!減るもんじゃあるまいし!」
男はみんなそう言う
その時、暗闇の中から、スクーターの音が聞こえてきた
動揺する香川
・・・ああ、早くしないとそろそろ変身が解けてしまう・・・
と、焦るおヨネ
ふたりの横でスクーターが止まった
ヘルメットを外した茶髪の女がジロッとおヨネを睨んでから、目線を香川に移した
「雅彦・・・何やってるんだ?」
落ち着かない仕草の香川
「い・・・いや・・・ヨネちゃんをさ、ここまで送ってきたんだ、ほら、暗いから危ないじゃん・・・」
茶髪の女、おヨネに目線を移して
「あんたがハニーパイに入ったっていう子だね、私は神奈川マリ、一応雅彦の彼女」
「ありゃ〜〜彼女さんですか」
嬉しそうに近寄り
「まあ、別嬪さんですなぁ〜〜、はじめまして、ヨネ17歳です」丁寧に頭を下げた
意表を突かれてちょっとドキッとするマリ
「17なんだ、タメだね」
「いや、ヨネです」
「・・・・・」
その時、おヨネのキッチンタイマーが鳴りだした、変身が解ける3分前だ
「あ・・・いや、あたし帰らなくてはいけません、マリさん、今日は会えて良かったです」
とりあえず廃屋の中から自転車を引きずり出してくるおヨネ、お婆さんの姿に着替えるわけにもいかないので、そのまま自転車にまたがった
「あ、そうそう、マリさん」
「ん?なんだい」
「あなたの彼氏が、あたしに接吻しようとしたんですじゃ、お仕置きしといてくだされ」
あわてる香川
「あ・・・いや・・・何言ってるんだいヨネ・・・ウグッ」
マリの左ストレートがまともに決まり吹っ飛ぶ香川、廃屋の壁にぶつかって倒れた
「ウググ・・・」
「なんであんたは女と見たらすぐにチョッカイ出そうとするんだよ!」
香川鼻血出しながら「ごめんなさい・・・」
おヨネの走り去ったほうを見ると、暗闇の中、左右に揺れている自転車の灯火が見えた

「ヨネ!気をつけて帰りなよ!」
マリの声を背中に聞きながら、おヨネは全速力で自転車を走らせた
でも、すぐに変身が解けて、足も動きも鈍くなってしまったが、ゼエゼエ言いながらも山道を一路楽園ホームに向かって帰っていくのでありました

つづく




 楽園ホーム、夕食前
玄関から出ようとしていた高知金五郎に、鹿児島ケンが後ろから声をかけた
「高知さん、あんたは楽器なんか出来ないよな?」
高知はジロッと仇を見るような目つきでケンを睨みつけた
「ふん、まさかあんたもおヨネ婆さんみたいにバンドコンクールに出るわけじゃないだろうな」
ケン爺さん、怒りを抑えて
「出来ないんなら用は無い」そう言うと食堂のほうに去っていった
「ふん、どいつもこいつも耄碌しやがって」
町へ向かって歩きだすとホームの二階から管理人のおばさんが呼びとめた
「高知さん、夕食はどうするんですか?」
「いらない!」
大声でそう言うと高知爺さんスタスタと歩き去った

二階の窓から見ている管理人のおばさん、大阪あけみ婆さん横にきて
「あの爺さん、町のスナックに通ってるってウワサ聞いてますか?」
「いえ、知らないですけど・・・」
「あたしの知り合いが見かけたらしいのよ、ここじゃいつもムスッとしてるけど、スナックのママに惚れてるらしくて、デレッとした顔で飲んでるみたいでんがな」
「ホント?どこにそんなお金あるのかしら?・・・まあ、でもそれはそれで元気ってことでいいじゃないですか」
「憎まれっ子世にはばかるって言いまんな」
顔見合わせて笑う二人

おヨネは今日もスタジオで練習
ロックバンドコンクールまであと三週間だ

♪この世は天国 なんかじゃない〜
この世は地獄 しんどいよ〜
早くポックリ 逝きたいよ〜
楽にポックリ 逝きたいよ〜

極楽 極楽 あの世は極楽
極楽ロックでイエ〜〜〜〜ッ!

少しずつまとまってきたような気がする
おヨネはロックのことなんかよく知らないけど、リーダーの香川に、こうしたらいいとか、ああしてとか、注文が多い、でもおヨネの言うようにやると何となくうまく聞こえるから不思議だ
おヨネは毎日お婆さんのまま町に来て変身、練習2時間してから、また変身して帰っていくという生活を続けていた、たまにはバンド仲間とミスドでおしゃべりしたりするが、おヨネにとっては若者の関心あることがよく分からない、いつも会話が頓珍漢になってしまうので、最近は練習が終わるとすぐに帰っていた、17歳の姿のまま自転車で帰るほうが楽っていうのもあるし

その日、練習が終わり、ロビーでスタジオ代払ったり、次回の予約したりしていると
クレイジーナイトの連中が別なスタジオから出てきた
「おや、これはこれは、ハニーパイ、少しはうまくなったか」
おヨネ思い出して「ありゃ、マクドナルドで会った人たちだね」
「あっ!俺たちのチラシ持ち逃げした姉ちゃん!」
「姉ちゃんじゃなくて、おヨネさんだよ」
クレイジーナイトのリーダーポール大分はハニーパイの連中とおヨネを交互に見ながら
「もしかして、この姉ちゃん入れてロックバンドコンクールに出るつもりか?」
「姉ちゃんじゃなくて、おヨネさん」
「分かったよ!・・・やめときな、こんな下手くそなバンドに入っても予選で落ちるだけさ」
ハニーパイのリーダー香川、さすがにムカッと来て
「今回のコンクールはオリジナル曲の善し悪しが大きいんだ、お前らオリジナルなんか無いだろ、大分権蔵」
「本名言うな!俺はポール大分だ!俺たちの底力見せてやるぜ!てめえらを奈落の底に突き落としてやる!」

帰っていくクレイジーナイトのメンバー
おヨネ、ちょっと心配
「あの人たち上手なの?」
「ああ、俺たちより数段うまいさ、そのくせ卑怯者なんだ」
「卑怯者?」
「あいつの親父はこの町の警察署長なのさ、それを笠にきて、中学の書道大会で、あいつの親父が審査委員長になって、自分の息子を優勝させたんだよ」
後ろからドラムの山形「コンクールも権蔵の親父が審査委員長になってたら、俺たちどんなに頑張っても勝ち目ないぜ・・・」
おヨネ腕組みして眉根に皺寄せて
「なるほど・・・」
その姿を見ているハニーパイメンバー3人
石川がボソッと「ヨネちゃんって・・・お婆さんみたい・・・」

おヨネあわててブリッ子して
「あら、やだ〜〜〜、私はまだ17歳よ
♪おお 愛のしるし 花の首飾り〜〜〜♪」
歌ってごまかした
シラ〜ッと見てる一同
その時、ポケットに入れてあるキッチンタイマーが鳴った
変身が解ける3分前にタイマーが鳴るようにセッティングしてあるのだ
あわてるおヨネ
「わたし帰ります!」
「あっ!ヨネちゃん!」
呼びかける声を無視して練習スタジオ飛び出した
表にまだクレイジーナイトの連中がたむろしていた、おヨネを見つけると
「姉ちゃん、お茶していこうぜ」
大分がおヨネの腕をつかんだ、それを振りほどいて
「急いでるんじゃ〜〜!」と叫んで駈け出した
着替えは町はずれの廃屋に隠してある
そこまで急がなくちゃ!
しかし、間に合わなかった・・・
変身解ける瞬間は誰にも見られなかったと思うけど、町の商店街を駆け抜けるおヨネは少女の服を着たお婆さんだった
唖然と見ている町の人々
その間を頬を染めながら息もたえだえに走るおヨネ

つづく

 ここは、練習スタジオ
わら半紙に書かれた歌詞を見て、ハニーパイリーダー香川はキョトンとしておヨネを見た
「極楽ロック?」
「あたしが作ったオリジナル曲です」
「この曲でロックバンドコンクールに出るのか?」
「いい曲じゃろ」
「ふざけんなよ〜〜〜!何が早くポックリ逝きたいよ〜〜だよ!こんな曲歌ったら笑われるぜ!」
おヨネアタフタ
「そ・・・そんなことないと思うけど・・・」
香川の横からわら半紙に書かれた歌詞を覗き込んでいたドラムの山形がボソッと
「・・・俺こんなの好きだよ」
そう言いながらドラム叩きだした
「こんな感じかな」
呆気に取られる香川、ドラムに合わせて歌い始めるおヨネ

♪この世は天国 なんかじゃない〜
この世は地獄 しんどいよ〜

ベースの石川も途中から加わり

♪早くポックリ 逝きたいよ〜
楽にポックリ 逝きたいよ〜

極楽 極楽 あの世は極楽
極楽ロックでイエ〜〜〜〜ッ!

歌いあげるおヨネ
拍手する石川と山形

ひとり香川だけポカンと見ている
興奮している山形はドラム叩きながら
「いい歌だよ〜〜!俺も早く極楽に行きたいよ〜〜〜!」
石川も頬を赤らめて
「うん・・・今までに無い歌だよね」
香川茫然
「嫌だ嫌だ嫌だ!こんな歌〜〜〜!」
駄々っ子のように叫ぶ香川
呆れるおヨネたち
「じゃあ、あんたはなにかオリジナル曲作ってきたの?」
正気に戻る香川
「・・・作れなかった・・・」

「じゃあしょうがないね、極楽ロックで逝きましょう!」
「オ〜〜〜〜〜〜〜ッ!」

♪この世は天国 なんかじゃない
この世は地獄 しんどいよ
早くポックリ 逝きたいよ
楽にポックリ 逝きたいよ

極楽 極楽 あの世は極楽
極楽ロックでイエ〜〜〜〜ッ!


つづく





 鹿児島ケンは前日から自室で携帯電話を掛けまくっていた
爺さんだから声がでかいので、廊下にまで声が響く
「だから、もう一度・・・」
「分かってるが・・・」
「女なんかに負けるわけにはいかんのじゃ・・・」
断片的にしか聞こえてこないが、あちこちに掛けているみたいだ

管理人のおばさんは夕食の支度をしながら、ふと手が止まってボーッとしては、手伝いの大阪あけみに注意されていた
「あっ・・・ごめんなさい・・・」
どうしても借金のことと、楽園ホームの行く末を考えてしまうのだ
そんな姿を柱の陰から見ながら、幽霊になった夫は気落ちしてしまうのだ
(妻があんなに困っているのに、私には何をすることも出来ない・・・ああ、くやしい・・・)

大阪あけみが突然包丁を持つ手を止めて
「そうや!ここはやっぱり咲子姉さんに頼むしかないで!」

咲子姉さんとは、元華族の兵庫咲子婆さんのことである

「咲子姉さん?」
「そうや!部屋に行きましょう!」

管理人のおばさんの手をつかんで、大阪あけみは二階の兵庫咲子婆さんの部屋へまっしぐら!
ノックしながら「咲子姉さん咲子姉さん」と連呼した
ドアを開けながら
「うるさいわね!何ですか?」
あけみは押し込み強盗のように中に入り、ドアを閉めた
「咲子姉さん、いつも財布に何十万も入っているし、芦屋に屋敷があるって言ってたやないですか?」
ドキッとなる咲子姉さん
「そ・・・それが、どうしたんですか?そりゃ、確かに私は元華族で芦屋に豪邸がありますし、財布はいつもパンパンに聖徳太子が入ってますが・・・あっ、今は福沢諭吉ですか・・・」
これ見よがしに膨らんだ財布を取り出した、確かに財布には札がいっぱい詰まっている

「それやがな!今こそ!咲子姉さんの財力が楽園ホームを救うん出んがな!」

「なんで?なんで私が救わなくてはいけないんですか?こんな汚いホームつぶれたって私には関係ありません、芦屋の屋敷に戻ります」
管理人のおばさん怪訝な表情
「芦屋の屋敷があるのなら、どうして楽園ホームに入所したんですか?」
「それは・・・あけみさんにも話しましたが、鬼嫁が私を追いだしたんですよ!息子も鬼嫁の味方するし!あんな家に居たくないから出てきたんです、でも楽園ホームが無くなったら・・・仕方ないから戻ります」

「もし、ホントに・・・お金を貸していただけるのなら、とっても助かります・・・必ず返しますから、そうすれば、ホームのみんながあなたに感謝すると思います」
管理人のおばさん必死に頼んだ
咲子姉さん不満そうな顔で
「おヨネ婆さんが何とかするって言うんですから、それでいいじゃありませんか」
「でも・・・優勝できるかどうか分かりませんし・・・」
「そうや、あんな婆さんがロックバンド作って出場したって笑われるだけでんがな、あたしからもお願いですわ、そんなにお金持ってるんやから貸したってや」
強引なあけみ婆さん、咲子婆さんの財布をつかんで引っ張った
「あ〜何するんですか〜〜」
引っ張り合った財布が半分に千切れて中身が部屋内に飛び散った

「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

管理人のおばさんが拾ってみると、一万円札では無く、ただの白い紙だった
茫然と顔を見合わせる三人
「すいません・・・芦屋の屋敷も・・・ウソです・・・」
うなだれる咲子婆さん


練習スタジオからの帰り道
変身が解けてお婆さんに戻ったおヨネが鼻歌しながら歩いていた
後ろから自転車のベルが鳴った
「おヨネさ〜〜ん」
立ち止まって振り向くおヨネ
「さくらちゃん、お帰り、今日は早いのね」
自転車から降りて、おヨネと並んで歩くさくら
高校の授業終わった後はいつも遅くまで牛丼屋さんでバイトしているはずなのだが・・・
「水道が壊れて、水が止まらなくなったの、店内水浸しだから、お休みになったんだ」
「そりゃ大変だったね」
「おヨネさんの親戚の子は練習スタジオに行ったんですか?」
「あ・・・ああ、今日行ったみたいだね、今までその子と一緒だったんじゃよ、ハニパイの人たちは良い人たちだって言ってたよ」
「そうなんだ、良かった・・・でも、おヨネさんがバンドに入らないとダメなんじゃないの?」
「あ・・まあ、それは考えてるよ、大丈夫じゃ」
しどろもどろのおヨネ婆さん

「あたしはさ、ホントはあんなホームで暮らしているの嫌なんだ、お爺さんとお婆さんばっかりだし・・・あっ、ごめんなさいおヨネさん・・・おヨネさんのことはあたし好きよ、明るいし、優しいし・・・でも、他の人たちは意地悪だったり、頑固だったり、卑屈だったり、暗かったり・・・」
苦笑いのおヨネ
「嫌なとこばっかりじゃのう・・・」
「あっ、ごめなんさい・・・」
「いいよ、謝らなくても・・・そりゃ、さくらちゃんから見たらそうだよね・・・あたしたちの望みは早くポックリ死んじゃうことだからね、身体も自由に動かないし目もよく見えないし、耳も聞こえないし、いつも頭に浮かぶのは思い出だけ・・・あの頃はあんなに楽しかったのに、今は・・・って考えたら、腹が立つんだよね・・・若いころは我慢していたけど、もうこの年になったら我慢なんかしたくないのさ・・・だから意地悪になったり、頑固になったりするんだよ・・・許しておくれね」
「おヨネさんが謝ることないわ・・・ごめんなさい生意気言って・・・あたし、おヨネさんがロックバンドコンクールで優勝して、あの嫌な社長が悔しがる顔を見てみたいわ」
「フフフ・・・頑張るからね、応援しておくれ」
「分かった!」

つづく



 長宗我部社長はしばらく笑いながら転げ回っていたが、やがてゼエゼエ言いながら立ち上がった
「こんな面白い話を聞いたのは久しぶりだよ・・・グフフ・・・あんたがバンド作ってコンクールに出場するだと?婆さん、あんた幾つだ?」
「女に年は聞くもんじゃないわよ!礼儀知らず!」
「グフフ・・・まあいい、ホントに出場するつもりか?バンドって言うのは一人じゃ出来ないのは知っているか?」
「知ってるわよ!バカにしないでおくれ!」
長宗我部社長はおヨネの顔を見ながらしばし考えていたが、やがてこう切り出した
「わかった、こんな面白い話しは滅多にないからな、そのコンクールが終わるまで楽園ホームの退去は待ってやる」

そこに集まっていた爺さん婆さんから歓声があがった、管理人のおばさんも目を見開いて驚いた
柱の陰で様子を伺っていた死んだ夫も喜んだ
「そのかわり、あんたが優勝できなかったら、すぐに退去してもらうからな」
そういって踵を返すと立ち去ろうとした、その背中にケンが叫んだ
「そのコンクールで優勝するのが楽園ホームの人間なら、おヨネ婆さんじゃなくても、いいのか?」
振り返り、その言葉の意味を考えていた長宗我部社長は「その通りだ」と言って帰っていった

「ケンさん、あんたも出場するつもりなのかい?」
「わからん!聞いてみただけだ!」
ケンさん足早に自室に戻っていった
「フン、偏屈爺さんだよ、まったく」
おヨネのまわりを婆さんたちが囲んだ
「おヨネさん、すごいよ」「優勝しておくれね」「期待してるよ」
婆さんたちはすっかりおヨネが優勝するつもりでいる

長宗我部社長が笑い転げている時に、高校から帰ってきて一部始終を見ていた管理人の娘、埼玉さくらがおヨネのそばに来て
「おヨネばあちゃん、ロックバンドって知ってるの?」
「そりぁ、知ってるさ、タイガースとかデンプターズとか、そんなやつだろ」
「なにそれ?」
「♪踊りに行こうよ〜〜青い海の元へ〜〜」
「知らないわよ、そんな曲?あんな安請け合いして負けたらどうすんのよ!」
「負けたっていいじゃろ、何もしないでいるより、何かやって負けたほうがいいじゃろ!」
「まあ・・・いいけどさ・・・バンドはひとりじゃできないのよ、一体誰とバンドやるの?」

おヨネ、ふと思いついて、さくらを自室まで連れて行った
「ワシの親戚の子がいるんじゃ、その子をとりあえずバンドに参加させたいんじゃが、さくらちゃんの知ってる子でバンドやってる子いないかの?」
「う〜ん・・・いないこと無いけど・・・」

翌日
さくらに教えてもらったバンドが毎日いるという練習スタジオに出かけた
もちろん変身して17歳の姿である

紹介してもらったバンド「ハニーパイ」はビートルズ好きな高校生で作ったバンド
プロ志向はゼロ、友達どおしで楽しくバンド活動が出来れば幸せ、そんなバンドである

「ヨネと言います、よろしくお願いします」
おヨネは可愛らしくアヒル口で挨拶した、最近テレビで覚えた技である
「キミは俺たちのバンドに入りたいの?」
「はい、そしてロックバンドコンクールに出場したいんです」
おヨネの相手をしてくれたのはハニーパイのリーダー香川雅彦、高校3年生
さくらの情報によると成金の御曹司、でも女好きだから気をつけるようにと忠告された
その他、ベースの石川大、寡黙にチューニング中、ドラムの山形準は眠そうに欠伸している
「でも、あのコンクールはオリジナル曲じゃなきゃ参加できないんだよね、俺たちオリジナル曲なんて無いしさ」
「大丈夫です!あたしが作ります!」
おヨネ元気いっぱい答えて可愛く肩をすくめた、これもテレビで覚えた技
ちょっと呆れた表情の香川
「あっそう・・・ところでキミ、楽器は何やるの?」
「ボーカルです!」
「えっ・・・このバンドのボーカルは俺なんだけど」
ちょっとムカつく香川
「じゃあ、オリジナル曲でいいもの作ったほうがボーカルやるってことで、いかがですか?」
「いかがですかって・・・」
おヨネのやる気満々にたじたじのハニーパイリーダー香川であった・・・

つづく


 助けたネコの妖術で、若い女の子に変身できる力をもらったおヨネ婆さん
早速その力を使って町のマクドナルドで働きはじめた
しかし、変身しいられるのは一日3時間、それしか働けないので、時給950円×3時間で2850円にしかならない
これじゃ楽園ホームの借金をいつ返せるのか分からない

そんなことをしているうちに一週間が経ってしまった

長宗我部社長がやってきた
長宗我部社長は見たところ30前後、ブランド物のスーツを着こなし、精悍な顔立ちだが、どこか人を馬鹿にしたような口角の上がり方に意地の悪さを感じる、キャバクラで嫌われるタイプだ・・・

管理人のおばさんも、楽園ホームの人々も半分諦めた表情で玄関を入ってくる長宗我部社長を見ていた
しかし、ドアを開けようとしても開けることができない、長宗我部社長はイライラとしながらドアを蹴った
それでもドアはびくともしない、仕方なく裏口に回った、しかし裏口も開かない
管理人のおばさんも、楽園ホームの人々も「?」という顔で見ている
建物をグル〜ッと回った長宗我部社長が表玄関に戻ってきたところで、足をもつれさせて何も無いところで転んだ

腰を打って顔をしかめる長宗我部社長
「また明日来るからな!」
怒鳴りながら帰って行った

管理人のおばさんと楽園ホームの人々はホッとしながら帰っていく社長を見送った
しかし、事態が好転したわけではない・・・

玄関横の柱にもたれて笑っているのは、幽霊になっている管理人の夫、埼玉晃
玄関が開かなかったのも、社長が転んだのも、すべて彼の仕業だった
「明日来たって、私が邪魔してやる!楽園ホームには絶対入らせないからな!」

翌日
おヨネはマクドナルドでバイトしているとき、客の話しが聞こえてきた
高校生4人組の彼らは列に並びながら一枚の紙を見て話していた
「一か月後か、何とかなるよな」
「ああ、この町に俺たちよりうまいバンドなんかいるわけないだろ」
「絶対優勝してやる」
「一千万とCDデビューだからな、負けるわけにはいかないぜ」

その4人組がおヨネの前に来た時に持っていた紙を奪い取った
その紙には

ロックバンドコンクール
賞金一千万円

おヨネ興奮した!
「これで優勝すれば一千万円!こんなとこで時給950円もらってる場合じゃないわ!」
すかさず制服脱ぎ捨てて楽園ホームへ帰るおヨネ
取り残された高校生4人組は唖然
彼らこそ、ロックバンドコンクールでおヨネたちの最大のライバルになるCRAZY NIGHTSの4人組であった

お婆さんの姿で楽園ホームへ戻るおヨネ婆さん
みんなが集まっている広間で紙を見せた
「バンド作ってコンクールに出るのよ、優勝したら一千万円、そうしたら借金を返せるわ!」
しかし、お爺さんお婆さん不審な顔
「ロック?」
「バンド?」
「コンクール?」
鹿児島ケン爺さんが呆れた顔で言った
「おヨネ婆さんとうとうイカレチまったか、ロックバンドなんてションベン臭いガキ共のやることだ、なんでワシらがそんなことしなくちゃいけねえ?」
「だって、優勝したら一千万円だよ、そしたらここの借金が・・・」
「優勝なんかできるわけないだろ、考えてみろ!こんなかの誰が楽器なんかできる、みんな動くのも大変な爺婆ばかりじゃ」
「あたしはピアノできる、他にも楽器できる人はいるかもしれん!誰かいないですか?」
しかし、広間の爺さん婆さん黙ったまま誰も返事をしない
若いころに楽器をやっていたとしても、今は中風や神経痛やリューマチで楽器なんかできそうもないのは想像がつく
静まり返った広間

でも、おヨネ婆さんは呟いた
「あたしはやる、一人でもやる・・・こんな年までお世話になったホームの危機をほっておくことはできん・・・」
玄関からまたドアを開けようとする大きな音が聞こえてきた
一同あわてて玄関を見た

長宗我部社長がドアを開けようとしていたが、昨日と同じように開かない
社長はうなずきながら連れてきた若者を呼び寄せハンマーでドアをぶち壊そうとした
「止めてください!」
管理人のおばさんが駆け込んできてドアを開けた、ドアは何の抵抗もなく開いた

「どうぞ、中へお入りください」

長宗我部社長、フンッと口角を曲げて、玄関に入って来た
「さて、一週間待ってあげたのだが、まだみなさんここに居るのですね、借金を返さない場合は、この土地建物すべて、この私、長宗我部の物です、すぐに立ち退いてください」
「すいません、もう少し待ってください、楽園ホームのみんなは身寄りもない人たちですから、ここを追い出されたら行くところは無いんです、あなたはこの人たちに死ねというのですか?」
「死ねとは言ってない、出て行ってくれと言っているのだ」
「なんだと!」
興奮した鹿児島ケン爺さんが叫んだ
「ワシたちは御国のために戦ってきたのだ!お前たちが幸せな生活を送っているのは、ワシらのおかげじゃないのか!」
「フンッ!死にぞこないの爺い!うるせえ!」
「なんだと〜〜〜〜!ウッグググッ・・・」
ケン爺さん興奮して倒れた
あわてて駆け寄る爺さん婆さん
「ケンさんしっかり〜〜!」

おヨネ婆さん、白目をむいてるケン爺さんを横目に見ながら、ツカツカと長宗我部社長に近づいて
4人組の高校生から奪いとってきた紙を見せた

「あたし、バンドを作って、このコンクールに出場します、そして、優勝して一千万円の賞金をもらいます、それで借金は無くなりますか?」
眉をひそめる社長
「借金はチャラになるが・・・あんたがロックバンドコンクールで優勝すると?」

「はい!」

長宗我部社長、突然噴き出して笑った、転げまわって笑った

しかし、おヨネは本気だった

つづく








長宗我部社長が来た翌日
管理人のおばさんは朝食後、楽園ホームのみんなを集め、一週間で退去しなければいけない旨を告げた
途端に広間内は阿鼻叫喚
失神するお婆さん、怒りだして血管が切れそうになるお爺さん、悲鳴を上げながら走り回り倒れるお婆さん、壁に頭突きするお爺さん
鹿児島ケン爺さんは大きな声で
「皇国の興廃この一戦にあり、各員一層奮励努力せよ!」と訳の分からないことを叫んでいた
元華族だったというのが自慢の兵庫咲子婆さんは腰巾着の大阪あけみ婆さんに
「株を買うのよ!絶対上がる株よ〜〜!」と尻を叩き、あけみ婆さんは「オイチョカブ〜〜〜!」と叫び
おヨネ婆さんはシロを抱いたまま茫然と「明日の朝は目覚めないように、お爺さん待っていてください、すぐに私も往きます」とブツブツと呟き
高知金五郎爺さんは、口元を曲げニヒルに笑っていた
広間の片隅では管理人の夫、今は幽霊になってしまった埼玉晃は、オロオロと心配そうに見ていた
その日の集まりは有効なアイデアが出るはずもなく
爺さん婆さん一同、騒ぎすぎてすぐに寝てしまった

夜中
三途の川を渡る夢を見ていたおヨネ婆さん
シロの鳴き声で目覚めた
「あら、シロ・・・もうすぐ黄泉の国に往けるところだったのに・・・どうしたんじゃい?」
すると、シロが喋りだした
「おヨネ婆さん、助けていただいてありがとうございました」
びっくりして心臓が止まりそうになったおヨネ婆さん
「ありゃりゃ!シロは話せるのかい、こりゃまたびっくり!」
「あたしは100年生きていたので、猫又になったのです、それで話しをすることもできるようになりましたし、妖術を使えるようにもなりました、いまおヨネ婆さんに助けてもらったお礼をしたいと思います」
そう言って両手を合わせ呪文を唱え始めました

「ニャニャニャニャンニャンニャ〜〜〜〜ニャ〜〜〜ニャンニャン」

シロが光に包まれていき、眩しくておヨネ婆さんは目を開けていられなくなりました
すると急に光が消え、あたり一面、元の暗闇
「おヨネ婆さん、鏡で自分の姿を見てください
枕元の灯りを付けて、手鏡を取り出した見ました
すると、鏡に映っているのは若くてきれいな女の子
「あら、あんたは誰じゃ?」
そう言って振り向いても誰も居ない
「その若くてきれいな女の子は、おヨネ婆さん、あなたの姿ですよ、あたしの魔法で一日三時間だけ若くてきれいな女の子に変身することが出来るようになりました、その変身を使って楽園ホームの危機を救ってください!」
「そうなのかぁ〜〜、あたしはいま若くてきれいな女の子なんじゃな?わ〜〜い!ありゃ!飛び跳ねても体が痛くならない?」
「だって、いまおヨネ婆さんは18歳の肉体なんですよ」
「18歳!そりゃすごい!おおお〜〜〜息切れもしない!おおお〜〜〜!」
「おヨネ婆さん、いまは夜中の三時です!そんな大声出さないで!」
「あはは、ごめんごめん、つい嬉しくてのぅ〜・・・しかし、若くなっただけでホームを救うことが出来るじゃろうか?それよりも、妖術で一億円出してもらったほうが、借金返して簡単にホームを救うことが出来ると思うのじゃが?・・・」
若い肉体のおヨネは頭の回転も早くなっていた
「ごめんなさい・・・変身の妖術しか使えないんです・・・」
ショボンとなるシロ
「たいして役に立たん術じゃのぅ・・・」
吐き捨てるように言うおヨネ
シロ、なんかムカついた

つづく




森の向こうに怪しい光
叫ぶ猫の声
そして断末魔のような悲鳴をあげるお爺さん
でも、それを聞いていたのは、森のフクロウたちだけ・・・

そんな恐怖の夜も明け、山の影から明るい太陽が昇ってくると
畑に囲まれた小さな老人ホームが建っていた
そこは、楽園ホームと呼ばれる私立の老人ホーム
ここは老人たちが集まって自給自足の共同生活をしているところ

楽園ホームでは朝食の準備が始まっていた
起きるのが早い老人たちは、庭を散歩したり、畑の中を見回ったり、ホーム内のソワァにグッタリ座っていたり、新聞に顔を近づけて読んでいたり、テレビの前でボーッとしていたり、ベッドの中で生死の境を彷徨っていたり・・・何か月に一度・・・いや月に二回の時もあったが・・・生死の境を彷徨って、あちらに行ってしまった老人たちは、数知れず
でも・・・ポックリ往くのがみんなの希望

おヨネ婆さんも毎朝目覚めるたびに「ああ・・・今日も生きていたか・・・残念」そう思いながら起き上る
そして庭から裏山まで散歩して戻ってくるのが毎日の日課
すると、裏山で傷ついたネコを発見、白い身体のあちこちにひっかいた傷が無数についていた
なんとか息はしているものの、瀕死の状態
おヨネ婆さんは傷だらけのネコを抱えるといそいで、楽園ホームに戻った

ホームの玄関前に並んでいる植木鉢に管理人さんの娘かえでが如雨露でお水をやっていた
「かえでちゃん、急いで救急箱持ってきて」
かえでは怪我をしているネコを見て
「あら大変!」と叫んでホーム内に走りこんでいった
おヨネ婆さんは玄関に座り込んで、膝にネコを乗せてやさしくなでた
かえでが救急箱持って戻ってきたので、ネコの傷に消毒薬つけて体中に包帯をまいてあげた
治療が終わるころにはおヨネのまわりをお爺さんお婆さんが囲んでいた
「まあ、ネコちゃん」「どうして怪我したのかしら?」「キツネにでも襲われたのかな?」などとガヤガヤ
管理人のおばさんが朝食の準備が終わって、みんなを呼びにきた
「ごはんですよ〜〜」

朝食は全員広間に集まって取る
管理人さん一家も集まってくる、食事の支度から経理雑用なんでもこなすのは埼玉陽子おばさん、とは言ってもまだ50前だ
夫の両親が楽園ホームを建てたが、二人とも亡くなった後、夫と二人で経営していたが、五年前に夫も病死してしまい、今はひとりで頑張って経営している
彼女の子供は長女さくらは高校二年生、長男と次女は二卵性双生児のかえでともみじ、小学四年生

楽しい朝食が終わると、さくらは自転車で高校へ、かえでともみじは歩いて小学校へ出かける
夫は幽霊となって楽園ホームに住んでいるが、姿を現すことは滅多に無い

畑仕事などは元気な者が担当し、あんまり元気が無い者は自室で過ごしたり、娯楽室で休憩したり
おヨネ婆さんは自室に戻り、ずっとネコを見つめていた
平和そうな楽園ホーム

そんなある日
ネコの怪我も治り、シロと名前もつけ、おヨネ婆さんと庭を歩き回れるようになったころ
土佐カンパニー長宗我部社長が訪ねてきた
「先日お貸ししたお金を回収に参りました」
相手をするのは管理人のおばさん
「えっ?でも返済はいつでもいいと?」
「私たちは慈善事業をやっているわけじゃありませんからね、いつでもいいなんてそんな都合のいいことあるわけないじゃありませんか、書類をよく見てごらんなさい、ほらここに」
虫眼鏡でしか見えない小さな文字で

{返済期限は貸主の気分しだい、返せない場合は楽園ホームは貸主の物}

そう書かれてあった
「騙された・・・・」おばさんがそう思った時、すでに長宗我部社長は立ち上がっていた
「まあ、私も優しい人間ですから、退去するまで一週間の余裕をあげましょう」

帰っていく長宗我部社長の姿を屋根の上から見ているネコが一匹
シロの目が怪しく光った

つづく




 


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